岩手県大槌町の佐々木慶一さん(62)宅前の路上を、こいのぼりの群れが、浜風を受けて泳いでいる。

 かつては高台の寺に向かう道の両脇に、民家や事業所が20軒ほど並んでいた。東日本大震災の津波で全戸が流され、大半が津波危険区域になり、通りの奥の高台に再建した佐々木さん宅だけがぽつんと残る。

 震災直後の5月、避難所になった寺で、少しでも元気が出るようにと飾られたこいのぼりを、避難所の代表だった佐々木さんは思い出す。

 今泳いでいるこいのぼり10匹は、その後に支援者から佐々木さんがもらったものだが、「当時の苦労と、助け合う気持ちを忘れないように」との思いを込める。

 毎年この時期のイベントなどに使わない時は、誰もいない通りの上に泳がせている。

 布が傷んで破れ、飾ることができるこいのぼりは少しずつ減っている。佐々木さんは、不要な家から寄付を呼びかけるつもりだ。(東野真和)