はなくいどり お寺めぐりが趣味なんだけど、先日、奈良の有名なお寺で仏像の盗難があったってニュースを見たよ。

 A 練供養や国宝建造物でも知られる當麻寺(葛城市)の塔頭(たっちゅう)「念仏院」で昨年8〜9月、鎌倉時代のものとみられる木造阿弥陀如来坐(ざ)像など2体が盗まれた事件だ。容疑者の男は大阪府警に逮捕され、仏像は幸いにもお寺に戻ってきた。

 は なんて罰当たりな!

 A 文化財の防犯に詳しい奈良大の大河内智之准教授によると、近ごろはネットオークションが普及して、古美術品も気軽に購入できる環境にある。そこに目をつけて、換金目的で信仰の対象に手を出す者もいる。

 は 男の目的もそれだったの?

 A 「売って稼いだ」。男はそのように供述したという。実際、阿弥陀如来像もネットオークションに出ていた。それをコレクターが盗難品と知らずに購入し、お寺に返還した。明日香村の向原寺にある金銅製の観音菩薩(ぼさつ)立像も50年前、盗難に。会員制オークションに出品されていたのをお寺が買い戻した。頭部は飛鳥時代後期の作とみられる貴重な仏さまだ。

 は 住職らがいるお寺以外の仏像の被害は?

 A もっと深刻だ。ただ、その背景を見てみると、なぜ仏像の盗難が後を絶たないのかについての答えになっているとも言える。

 は どういうこと?

 A 優れた仏像が点在する奈良にも、集落の住民が守り継いでいる仏像がたくさんある。文化財に指定されていないものも多い。

 そんな中、人々の高齢化などで、目が行き届かず、いつの間にか行方不明となる仏さまもあるという。人口減社会とネット社会。仏像の受難は二つの世相が反映されているように映る。

 は 防ぎようがないの?

 A 対策はある。仏像の安置場所の厳重な施錠は当然として、写真撮影や寸法測定などをしておくことや、どこにどんな仏さまがあるのかを守り手が把握しておくことが重要になる。念仏院で盗まれた阿弥陀像も、過去に取っていた記録と特徴が一致したから、お寺に戻すことができた。

 は それでも、安置場所が無人状態だったら仏像受難のリスクは減らないのでは?

 A 注目されている試みがある。3Dプリンターを用いた仏像の複製づくりだ。大河内准教授が前職の和歌山県立博物館で取り組んできた。複製は「お身がわり仏像」と呼ばれる。和歌山で相次いだ仏像窃盗事件を受けた対策だ。地元、県立和歌山工業高の生徒や大学生も関わっているそうだ。

 は 文字どおり、実物の身代わりってこと?

 A 実物は博物館などで保管し、精巧な複製を地域に安置する。そうすることで、地域の人たちの信仰心や文化財への保護意識も維持される。「消滅可能性自治体」の多い奈良県でも需要がありそうな試みと思う。

 は 盗んだ仏さまなのに、買い手がいる。そういう需要があることが、一番の問題じゃないかな。

 A 仏像の盗難は平安時代初期の仏教説話集「日本霊異(りょうい)記」にも登場するぐらい昔からある。明治時代に法隆寺から盗まれたとされ、1994年にフランスから里帰りを果たした菩薩像の話も知られている。

 神像のほか、外にあるこま犬など石造物も被害に遭っていると聞く。県警に全国でも珍しい「文化財保安官制度」がある奈良。「世に盗人の種は尽きまじ」という言葉がある。でも、こうした「神も仏もない」文化財への冒瀆(ぼうとく)は、この地では、もう起きないことを願う。

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オシドリの「はなくいどり」は朝日新聞奈良総局の公式キャラクター。正倉院宝物にも描かれた吉祥文様です。花をくわえて、最新のニュースや身近な話題を求めて県内を飛び回ります。(清水謙司)