シェアハウスに暮らす住人たちの本を詰め込んだ私設文庫が、いまや地域の人たちが交流する場になっている。板谷隼さん(29)は「本や人との交流で学び、利用者が何かに挑戦するのを後押しするような場にできたら」と語る。

 奈良県出身。筑波大に進学し、茨城との縁ができた。所属していたサッカー部では、部員が地域の子どもたちにサッカーを教える活動が盛ん。学生時代から、つくば市内の少年チームで子どもたちと交流した。

 大学院進学後は、部内で後輩の指導にも力を尽くした。「将来はサッカー選手の育成や普及に関わる仕事がしたい」と、2020年春からJ2水戸ホーリーホックの普及コーチとして働く。

 社会人生活のスタートは、新型コロナが世界中に流行し始めた時だった。スポーツも含め、社会活動は大きく制限されていた。サッカー以外でも人との関わりを持ちたくて参加した「朝活」がきっかけとなり、21年、水戸市内に「住み開き」のシェアハウスをオープンした。

 「住み開き」は、家の一部を地域に開くことで交流を生み出す活動のこと。ただ、住人以外がシェアハウスに入るハードルは高い。自身も暮らすシェアハウスの住人たちの本を集め、22年に「はちとご文庫」を始めた。末広がりの「八」と仲間の意味を持つ「伍」を組み合わせ、訪れる人それぞれに仲間ができる、地域に開かれた場所になるように、との願いを込めた。

 自慢の絵本コーナーには約200冊が並ぶ。利用者からの寄贈も含め、コツコツ集めた小説やエッセー集、漫画など、全体で約600冊まで増えた。

 図書館としての認識が徐々に広まり、年間延べ400〜500人が訪れる居場所になった。「本をパラパラめくっていたら、そこにいても不自然じゃないと思える」と、本がある場所の意味を感じている。「将来的には、学校に行きづらいと感じている子たちの居場所にもなればうれしい」

 手狭になったことから、昨年末、近所の古民家にシェアハウスごと移転。室内を改装し、文庫エリアのほかに仕事や勉強にも使えるシェアリビングを作るため、13日までクラウドファンディングを募っている。プロジェクトの詳細はREADYFORの専用ページ(https://readyfor.jp/projects/migiwa-sharebase)へ。(宮廻潤子)