事件の捜査や行方不明者の捜索で活躍する警察犬。警察が飼育する警察犬だけでなく、民間の「嘱託警察犬」もその役割を担ってきた。警察犬を育て、確保するのは容易ではなく、嘱託犬は飼い主たちのボランティア精神に支えられてきた現状がある。

 岡山県総社市の高梁川河川敷のグラウンドに4月8日、ジャーマン・シェパードやラブラドルレトリバーなど大型犬を中心に二十数頭が集まった。年に1回開かれる岡山県警の嘱託警察犬の競技会だ。

 リードなしで飼い主の歩みに合わせて進んだり、指示で停止したりといった基本的な動作をみる「服従」、同じにおいの布をかぎ分けて見つけ出す「臭気選別」などの競技が行われた。

 県警には、県警が飼育する「直轄警察犬」が4頭いるのに対し、民間で飼われ要請したときに飼い主と一緒に出動してもらう嘱託犬は25頭いる。毎年秋の審査会で基準をクリアすれば委嘱される。任期は2年間だが、10歳を超えると1年間になる。

 性別や犬種、体の大きさは問われない。過去にはシバイヌやトイプードルが採用されたことも。いまも小型犬のジャックラッセルテリアが1頭いる。服のにおいを手がかりに遭難者を捜すことができる嘱託犬も5頭いるという。

 県警では昨年、直轄犬の出動件数は過去最多の350件を記録した。嘱託犬も行方不明者捜索に55件、事件事故で3件の現場に向かい、いなくなった小学生男児を見つけるなど2件の成果をあげた。荻野英俊刑事部長は競技会のあいさつで「高齢者の行方不明は増加傾向にある」と指摘し、嘱託犬の重要性を強調した。

 県警によると、認知症が疑われる高齢者の行方不明者はコロナ禍の期間も含め、過去5年は年間270〜300人で推移している。

 嘱託犬の飼い主に支払われるのは月2500円の報償費、出動時間帯に応じた謝礼数千円だ。鑑識課の池田憲治次長は「皆さんに温かい心で協力してもらっている」と感謝を述べる。嘱託犬の飼い主の一人、高木留美さん(57)=早島町=は「人の役に立ちたいという社会貢献の思いでやっている」と話す。

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 ただ、県警の嘱託犬の確保をめぐっては懸念もある。昨年25人いた飼い主は今年は20人に。飼い主が所属する県警察嘱託犬協会長の岡祐一郎さん(62)は「飼い主には高齢の人もいるし、若い人で嘱託犬(の育成)を目指す人も減っているのではないか」と要因を推測する。

 岡さんによると、飼い主らはボランティア精神で協力している。自身も、事件や行方不明者、遭難の捜索など約20年で250件以上の出動を経験した。「現場ごとに状況は異なるし、当事者の家族に会うこともあり、いい加減な気持ちではできない」

 1回の出動は約1〜2時間だが、犬の集中力の状態や体調を見ながら、サインに注意を払う。

 最近は大型犬を飼う人が少なくなっていると感じる。また、周囲に迷惑をかけないように気をつかっているが、草が生えていて追跡訓練ができる場所の確保が難しくなっているという。河川敷も犬の立ち入りを制限する場所があるほか、リードを放して行う訓練に苦情の通報もあるという。(北村浩貴)