東日本大震災の復興工事で伐採される危機を乗り越えた、岩手県大槌町の安渡公民館の前にある「一本桜」が満開を迎え、14日、花見会が開かれた。安渡町内会の主催で、大槌高校の生徒約15人が企画や運営に協力。約150人が郷土料理「すっぷく」や綿あめ、団子などに舌鼓を打ちながら、ピンク色に染まる景色を楽しんだ。

 このソメイヨシノが立つ場所は、震災前は小学校で、校庭に沿って十数本の桜が並んでいた。震災で学校は避難所となり、統廃合後、校庭に仮設住宅が立っていた時期もある。佐々木慶一会長によると、復興事業の一環で新しい道路をつくるのに桜の伐採計画が持ち上がった。ただ、地域の復興のために残したい、という訴えがかない、1本だけ残った。

 昨年は強風のため室内で開いたが、今年は快晴で、屋外での開催となった。かつての風景も知る中村百合子さん(80)は「みんなが思い入れのある桜。懐かしいし、こういう形でみんなで見られて、本当にうれしい。企画してくれた町内会や高校生にも感謝したい」と感激した様子。里舘瑠那(るな)さん(15)と璃乃(りの)さん(10)の姉妹は「お母さんと3人で、初めて来た。写真もきれいに撮れて100点満点です。団子もいろんな種類があっておいしかった」と笑顔を見せた。

 企画や運営に携わった大槌高校3年の岡本亜胡(あこ)さん(17)は「友達とイベントの運営ができて忙しかったけど楽しかった。友達とも見られて良かった」と語っていた。

 桜の前にある公民館では、住民らが持ち寄った140枚ほどの桜の写真を展示している。昔を懐かしんだり、なかなか見る機会がない他の場所の桜を楽しんだりしてもらおうと企画された。

 公民館のある場所はかつて小学校。開校していた時から、震災後に地域の被災者を癒やしていた時までの移り変わりが、周囲に十数本咲き誇っていた桜とともにわかる。

 住民たちは写真を指さしながら「桜並木の間にベンチがあったね」「震災直後は水産加工場が被災して運動場がシラス(小魚)の干し場所になった」などと昔話に花を咲かせていた。

 被災後、スマホで撮り続けた写真が展示された戸沢多賀子さん(74)は「桜を見ながら通学した。震災後は慰められた。やっぱり安渡の桜が一番」とほほえんだ。

 一本桜は天気が良ければ16日までライトアップされる。時間は午後7時〜8時半。写真展は入場無料。開館は午前9時〜午後5時で、水曜休館。21日まで。(藤井怜、東野真和)