2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権&スーパーGT GT500王者の宮田莉朋が、トヨタのハイパーカー、GR010ハイブリッドでル・マン24時間レースが開催されるサルト・サーキットに“デビュー”を果たした。

 昨年の国内ダブル・タイトル獲得により、TGR WECチャレンジドライバーとなった宮田は2024年、活躍の場を海外に移した。今季はWEC世界耐久選手権のトヨタGAZOO Racing(TGR)でテスト&リザーブドライバーを務めるかたわら、FIA F2選手権に参戦。さらにELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズにも参戦するなど、“三刀流”の活躍を見せている。

 宮田はELMS参戦チームであるLMP2のクール・レーシング37号車で、初めてとなるル・マン24時間レースへの出場が決まっているが、レースウイークを控えた6月9日のテストデーにはTGRのドライバーとしてもエントリーしており、ハイパーカー、LMP2の双方でサルト・サーキットを走ることとなった。

 セッション1で両マシンに乗った感触、そして宮田にとって初めてのサルト・サーキット体験はどのようなものだったのか。セッション直後に話を聞いた。

■「無事に終えられてホッとしています」

 この日の8号車トヨタGR010ハイブリッドでは、ベテランのセバスチャン・ブエミが2周の確認走行をした後、宮田が5周(計測3ラップ)を走行するランプランとなっていた。つまり、セッション開始10分後には、いきなり宮田がステアリングを握ることに。過去2回、テストに参加している宮田にとっては、3度目のGR010ハイブリッドのドライブとなった。

──サルト・サーキット初走行がいきなりハイパーカーとなりましたが、緊張はしましたか?

宮田:そうですね、緊張というか……本来、誰かがちゃんとタイムを残してくれていれば、ここまで行ける・行けないという参考になるのですが、本当にセブがアウト/インしただけですぐに乗ることになったので、『このタイミングなんだ』というくらい、早かったです(笑)。ただ、計測3周を走り切って、リザーブとして(いざというときに)レースに参加できるようすることが僕のタスクだったので、あまりタイムどうこうは追っていませんし、逆に無事に終えられたことはホッとしています。

※編註:宮田のベストラップは3分37秒439。セッショントップは3分28秒467

──どんなところに気をつけて走りましたか?

宮田:操作系に関しては基本、テストもさせていただいたので大丈夫でしたが、やはりコースが初めてなので、たとえばスイッチ類を変更するとか、後ろを見る、スロー車両に注意するといった『気配りできるタイミング』が難しい。セクター3に入っていくとハイスピードコーナーばかりなので、リスクが大きいというか、ちょっとしたブレーキの踏み方、クルマの動かし方で、スピンや下手したらクラッシュにもつながるコーナーが多いですから、そのあたりは結構慎重にいきました。

──GT3との速度差については?

宮田:スーパーGTに似ていて、やはり向こうはABSがあって、こちらはそれがないので、向こうの方が若干ブレーキは飛び込める。それに対しては、自分の経験があったので戸惑うことはなかったですね。

■全開・好感触のポルシェコーナー

──LMP2ではここまで2戦戦っていますが、ル・マンで走らせてみていかがでしたか。

宮田:基本はイメージどおりな感じがしますね。LMP2はハイパーカーに合わせて(ELMSより)重くてパワーも抑えられているので、ELMSよりは遅い感じはしますがそんなに大きな差はないですかね。むしろ、今日はハイパーカーに乗ってからLMP2に乗ったので、目の慣れの部分で言うと「遅いな」というか(笑)、いい意味で慣れながら乗れた感じですね。

──ひとつのセッションでハイパーカーとLMP2に乗る人は、なかなかいないでしょうね。

宮田:初ル・マンで、なかなかこんなことないですよね。本当に、素晴らしい機会を与えていただいたTGRとクール・レーシングの皆さんには感謝しかないです。

──LMP2の方のマシンバランスはいかがでしたか?

宮田:ル・マンの経験があるマルテ(・ヤコブセン)選手から聞いた感じだと、調子は悪くなさそうです。ニュータイヤは入れずに、前のサーキットから持ち越したタイヤで最初は走っているので、他の状況は分かりませんが……。僕が乗り込んだときはセーフティカーのテスト中だったので、2〜3周しか全開では走れていないのですが、自分のなかでは順調にいけたかなと思います。ル・マンは1週間と長いですから、自分のなかでは次の人にいかにつなげるかということを意識して練習したので、そういう意味では限られた時間でいろいろと学べたかなと思います。

──チームメイトのロレンツォ・フルクサ選手はセッション終盤にポルシェコーナーでクラッシュしてしまいました。

宮田:まだ本人からは多少の情報しか聞けていないので、なぜそうなったのかは理解しきれていません。ただ、起きたことはしょうがないので、切り替えて、変にネガティブに捉えずにいきたいです。

──宮田選手が乗っているときには、ポルシェコーナーで変な挙動があったりしたわけではなく?

宮田:あそこ、僕は気持ち良く全開で曲がれてしまい、「こんな感じでいけるんだ」と感じました。マルテ選手は「思ったほど路面コンディションは悪くないし、グリップする感じもあるから、ステップ・バイ・ステップでいけば絶対に限界は分かるはずだから」と言ってくれましたし、自分はハイパーカーからの乗り換えだったので、速度感の慣れの部分もあるとは思いますが、自分のなかでは「意外とここまで行けるんだ」という感覚で終わっていました。それがいい意味でのトラップなのか、これ以上もっと上に行ける向上シロがあるのか、それを午後のセッションで理解を深めたいと思っていて。ただ、自分はそんな(好感触で)終わったところで、彼はクラッシュしてしまったので、ちょっと自分の中でも確認はしていきたいですね。

──サルト・サーキットの全体的な印象、シミュレーターとの違いなどは?

宮田:慣れてきてからいま振り返ると、あまり差はない印象ですね。強いて言えば、縁石の使い方が難しいのではないかと思います。黄色いバナナが置いてあるわりにはインカットできるところもあるし、逆にしてはいけないところもあるし、それこそ縁石に乗ったことが影響してクラッシュに繋がるコーナーもあるし、そういうところは逆にシミュレーターよりも実車の方でしっかりと走らないと分からないことが多いですね。

──ハイパーカーに抜かれる、という部分に関してはいかがですか?

宮田:結構後ろを気にしなればいけないので……周囲はどうなっているのか知らないのですが、僕らのクルマにはバックモニターがついてなくて、(サイド)ミラーだけなんですよ。そこは結構大変だな、と。ELMSは前を見るだけでしたし、(LMGT3で出場した)WECスパはもう後ろだけ見てればいい、しかもGT3はバックモニターもいいものが付いているので……。そこはしっかりと意識して、「来るかもしれない」と思いながら運転しないといけない印象ですね。

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 取材後、午後のセッション2では、37号車は中盤から無事にコース復帰を果たし、周回を重ねている。ELMS開幕戦では優勝、第2戦でもトラブルが発生するまで首位を走っていただけに、ル・マンでの上位進出にも期待がかかる。この先、レースウイークを通じて宮田がどれだけこのコースで“Wチャンピオン”の実力を発揮してくれるか、楽しみにしたい。