キャリアの長いライダーなら「点火プラグ」のチェックや交換作業の経験があるハズ……ですが、現行バイクでもやっていますか? というか、いまどきライダーは、点火プラグをナマで見たことが無い人もいるのではないでしょうか。

点火プラグのチェックは“日常メンテ”だった!?

 バイクのエンジンは、シリンダーに吸い込んだガソリンと空気を混ぜた混合ガスが爆発することでエネルギーを生み出します。その混合ガスは「点火プラグ」で飛ばした火花によって燃焼しています。

混合ガスに火を点ける「点火プラグ」。バッテリーや発電機で生んだ電気を元にして火花を飛ばしている。写真は筆者所有の点火プラグ
混合ガスに火を点ける「点火プラグ」。バッテリーや発電機で生んだ電気を元にして火花を飛ばしている。写真は筆者所有の点火プラグ

 点火プラグはエンジンのシリンダーヘッドに装着され、燃焼室に突き出した電極に火花を飛ばして混合ガスに火を点けます。そして点火プラグにはエンジンの特性(圧縮比や混合ガスの濃さ等々)に合わせた「熱価」が定められています。この熱価が適正でなければ、電極付近が混合ガスで湿る“カブッた状態”や、逆に真っ白な“焼け過ぎの状態”になったりします(熱価が適正であればキツネ色〜薄ネズミ色にキレイに焼ける)。

 点火プラグがカブった状態になると、エンジンの始動性が悪くなったり、混合ガスでベッタリ濡れて火花が飛ばなくると、まったくかからなくなります。また焼け過ぎていると、最悪の場合はエンジンが焼き付いて壊れてしまうこともあります。

 バイクメーカーが指定する熱価(番手)の点火プラグを付けているのにこれらの症状が出る場合は、バイクに何らかの問題(エアクリーナーが汚れている、キャブレターの不調、点火系の不調など)があります。そのため、かつては点火プラグを外して電極付近の焼け具合をチェックすることが、日常的な点検のひとつだったのです。

 じつは1970年代頃までのバイクは、故障していなくても点火プラグがカブってエンジンがかからなくなることがありました。とくに当時の2ストロークエンジンはその傾向があり、1980年代のバイクでも、エンジンのかけ方が悪いと(キック始動に慣れていなかったり、始動時に必要以上にアクセルを開け締めするなど)カブりました。また、しばらく乗っていないだけでも、エンジンのかかりが悪くて結果的にカブってしまうこともありました。

点火プラグの電極付近。写真は若干カブッた状態
点火プラグの電極付近。写真は若干カブッた状態

 点火プラグがカブった時は、エンジンから点火プラグを取り外し、プライヤーでつまんで台所のガスコンロで電極を焼いたり、出先だとライターで炙って混合ガスで湿った電極を乾かして、火花が飛ぶように復活させました。また予備の点火プラグを携帯するライダーも少なくありませんでした。

 そのため、当時のバイクの車載工具には、点火プラグを脱着するためのプラグレンチが、もれなく含まれていました。

 そしてバイク自体も、点火プラグが脱着しやすいようシリンダーヘッド上部に余裕をもって作られていました。カウリングを装備したレーサーレプリカの場合も、点火プラグへのアクセスのしやすさを相応に確保していました。それくらい点火プラグのチェックや交換は、一般的な作業だったのです。

現代バイクは、点火プラグに到達できない!?

 かつては日常的に行なっていた点火プラグのチェックや交換ですが、1990年代頃には設計や生産技術の向上によって信頼性が高まり(ノーマルで相応にメンテナンスしているバイクは)点火プラグがカブったり焼け過ぎることはほとんど無くなりました。

 そして2000年代には燃料供給がキャブレターから電子制御のフューエルインジェクションに移行したことでエンジンの燃焼状態がいっそう安定し、点火プラグのトラブルは皆無に近くなります。さらにこの時期、厳しさを増した排出ガス規制によって、点火プラグがカブりやすかった2ストロークエンジンは(競技車両などを除いて)姿を消してしまいました。

 というワケで、いつしか点火プラグの焼け具合のチェックや交換作業を行なうのは、カスタムやチューニングしたバイク、旧車に乗るライダーくらいになりました。

ホンダ伝統のスーパーカブ系の空冷横型エンジンは、シリンダーヘッドが露出しているため点火プラグの着脱が容易。写真は「モンキー125」
ホンダ伝統のスーパーカブ系の空冷横型エンジンは、シリンダーヘッドが露出しているため点火プラグの着脱が容易。写真は「モンキー125」

 そして頻繁に点火プラグをチェックする必要が無いので、バイクの設計度は凝縮度を増して行き、シリンダーヘッド周りも隙間なくギュウギュウに。気が付けば点火プラグの脱着は、一般ライダーでは不可能と言えるレベルの難易度になってしまいました。

 近年のスーパースポーツ車は、カウリングや燃料タンクを外しても(この作業自体が大変だが)、エアボックスやフレーム類に阻まれ、点火プラグには簡単にアクセスできません。またネイキッド車やクラシック系でも“身が詰まっている”車両が多く、やはり点火プラグのチェックは容易ではありません。

 そのため、現行バイクで一般ライダーが簡単に点火プラグのメンテナンスができるのは、ホンダの横型エンジンを搭載する人気の125系などではないでしょうか。

点火プラグは“消耗品”

 もはやチェックが不要(できない?)な近年のバイクの点火プラグですが、かと言って永遠に使える訳ではありません、と言うより、点火プラグは“消耗品”です。

 燃焼室に配置される点火プラグの電極は、つねに猛烈な高温と高圧に晒されながら、約3万ボルトもの高電圧で火花を飛ばしています。そして4ストロークエンジンはクランクシャフト2回転で1回爆発するので、たとえば1000回転でアイドリングしている時でも1秒間に約8回、スーパースポーツ車がパワーを発揮する1万2000回転なら、なんと1秒間に100回も火花が飛んでいます。そのため長期間使用していると、電極が少しずつ摩耗して行きます。

 すると走行中に体感的に大きな変化は無くても、パワーや燃費はわずかに悪化します。さらにその状態で乗り続けると、排気系のセンサーや排気触媒を傷めたり、点火コイルに負担がかかって寿命が短くなるとも言われます。

点火プラグには様々な種類があるが、必ずバイクメーカーが指定する品番のモノに交換しよう
点火プラグには様々な種類があるが、必ずバイクメーカーが指定する品番のモノに交換しよう

 そのため、点火プラグは定期的な交換が推奨されています。大手メーカーのNGKでは、一般プラグおよびイリジウムIXプラグで3000〜5000km、バイク専用のMotoDXプラグで8000〜1万kmを交換目安としています。この走行距離が“点火プラグの賞味期限”です。

 前述したように、近年のバイクはライダー自身が点火プラグを交換するのは難しいので、バイクショップに依頼する方が無難です。定期点検や車検時に合わせて交換してもらうことが、コスト的にもオトクでしょう。