◇渋谷真コラム「龍の背に乗って」 ◇30日 中日1−2DeNA(バンテリンドーム)

 プロ初勝利を挙げたDeNA・中川颯は、ヒーローインタビューで「広い球場でしっかりゾーン勝負を意識した」と答えていた。初顔合わせではない。20日前にリリーフで5イニング7安打。球筋はわかっていた。そして下手投げ攻略にはいくつかのレシピがある。誰もが思い付くのは球の出どころが見やすい左打者。中川颯も試合前の時点で右には被打率2割だが、左には3割3分3厘(30打数10安打)と例外ではない。この日の中日は、小笠原を除いて岡林、上林、村松を先発起用したが、これ以上増やすには細川や木下を引っ込めるしかないので3人は上限だった。

 次が「初球を打て」。ほとんどの下手投げは、初球にストライクを投げる。自分が希少だと自覚しているから、相手が「まずは見よう」と思うと知っているからだ。今季の中川颯は第1ストライクが4割、第2ストライクも4割だが、追い込むと1割2分。打者が「見る」のは、下手投げの思うつぼだと数字は明確に語っていた。

 最後が「2巡目以降に攻略せよ」。今季の中川颯は1巡目(リリーフ含む)が2割2分2厘だが、2巡目以降は3割6分8厘とはね上がる。

 全てはデータ通りではあった。この日の中川颯は打者23人に対して初球ストライクは18人(見逃し10、ファウル4、凡打3、安打1)。振る打者が少ない上に、唯一仕留めたのが最後の打者・細川(右前打)と遅きに失した。そして2巡目の最後から3巡目にかけてつくった6、7回の好機で攻めきれなかったことが敗因である。

 侍ジャパン監督の井端弘和さんに、かつて教わったことがある。12打数無安打と抑え込まれた元ロッテの渡辺俊介の攻略レシピを、彼は2007年に編みだした。

 「右の僕なら外じゃなく内なんです。外だとスライダーまで追っかけちゃうから。おっつけるより、巻き込むくらいに強引に引っ張り込む」

 名付けてテニス打法。逆転の発想だ。これ以降、対渡辺は12打数6安打。きっと中川颯とは再戦がある。次は打つ。それがプロ野球だ。