「老舗旅館の大浴場をカフェにリノベーション」
そんなユニークな取り組みがされたのは、愛知県蒲郡市で、創業69年を迎えた老舗旅館〈銀波荘〉です。1階にあった古い大浴場を改装し、〈温泉喫茶 si no no me〉として再出発。
2024年1月のオープン以来、多くの人が訪れるスポットとなっています。
〈温泉喫茶 si no no me〉の店内に足を踏み入れると、目を引くのは美しいオーシャンビュー。中央にあるアール壁のオープンキッチンがあり、テーブル席のほか、浴槽の腰掛けを活用したユニークな席も設けています。
外にあった露天風呂は、足湯も兼ねたテラス席に改装。足湯に浸かりながら、ゆっくりティータイムを楽しむこともできます。
大浴場時代に使っていた手すりや排水溝も、あえて残しました。ただ単におしゃれなだけではなく、温泉旅館として長く愛された〈銀波荘〉の歴史を体感できる空間にもなっています。
地元の味を楽しめるメニューの数々店内では、クリームソーダやワッフルをはじめとした軽食とスイーツ、ドリンクが多数。なかでも地元の食材を気軽に味わえる、フォトジェニックなメニューに注目です。
左から「黄昏クリームソーダ」「蒲郡クリームソーダ」「東雲クリームソーダ」(各950円)。
「蒲郡クリームソーダ」は蒲郡みかんのパウダーとジャムを使い、さっぱりと仕上げた1杯。ひと口味わうと、蒲郡みかんのさわやかな香りと濃厚な甘さが広がります。
店の前に広がる海や山々を背景に写真撮影をすれば、蒲郡を訪れた記念になる、すてきな1枚となることでしょう。
「西尾抹茶とみかん餡」(1200円)は、抹茶を練り込んだワッフルに、蒲郡の名産品であるみかんでつくった餡をのせ、抹茶ソースをかけた一品です。
抹茶は国内有数の産地である、お隣の西尾市で採れたものです。
ほかにもバラエティ豊かなソフトクリームや、オリジナルブレンドのコーヒーなども用意しています。
都内のデザイン事務所と、郊外の温泉旅館との出合い〈温泉喫茶 si no no me〉を手がけたのは、東京でブランディング・プロデュース事業を行っている〈LON Inc.〉と、日本の伝統と最新技術を組み合わせた商品を制作・展開するプロダクトデザインユニット〈goyemon〉です。
もともと今回のリノベーションは、蒲郡市のお隣・西尾市出身である〈LON Inc.〉の代表・成田さんが、〈銀波荘〉から直接、相談を受けたことがきっかけでした。加えて〈LON Inc.〉と〈goyemon〉の代表たちの世代が近く親交があったこと、〈goyemon〉が過去に宿泊施設のリノベーションと内装を手がけていたことなど複数の要素が重なって、タッグを組むことに。
しかし、アイデアを具体化するまでにはいくつもの困難がありました。
当初、〈銀波荘〉側の希望としてあったのはふたつだけ。「老朽化で壊れてしまった大浴場の跡地にカフェをオープンしたい」「蒲郡や愛知県にはなかなかない、都会的かつ最先端なデザインがいい」このオーダーをどう叶えるかが、悩みどころでした。
「〈銀波荘〉が持つ歴史や大浴場の雰囲気・名残を生かしつつ、都会的なエッセンスを加えた店にしよう」という構想自体は、早くに固まりました。とはいえ、大浴場をカフェにするのは、〈LON Inc.〉と〈goyemon〉のどちらにとっても初めてのこと。「元温泉を、どんな空間にしようか」「この歴史ある場所で、どんなストーリーを紡ごうか」といったことを考える日々が続いたのです。
蒲郡への旅の新たな目的地にそしてできあがったのが、大浴場や露天風呂の設備を残しつつ、蒲郡の朝焼けを思わせる東雲色を基調にした〈温泉喫茶 si no no me〉です。
歴史ある大浴場の面影を残しつつ、地産の食材を使った品々が楽しめて、都会的なエッセンスを感じられる唯一無二の空間に仕上がっているのは、〈銀波荘〉と〈LON Inc.〉、そして〈goyemon〉という3者が持ついくつもの思いが重なってのことだといえそうです。
〈温泉喫茶 si no no me〉は、〈銀波荘〉の宿泊者以外も利用可能です。蒲郡を訪れた際に立ち寄るのはもちろん、〈温泉喫茶 si no no me〉をお目当てに、蒲郡への旅のプランを考えてみてもいいかもしれません。
information
温泉喫茶 si no no me
住所:愛知県蒲郡市西浦町大山25
TEL:0533-57-3101
営業時間:10:00〜17:00(16:15L.O.)※火曜は〜16:30(16:15L.O.)
定休日:水曜
Web:温泉喫茶 si no no me
writer profile
Hiroko Shimokawa
シモカワヒロコ
しもかわ・ひろこ●岐阜県岐阜市出身。タウン誌の編集者を経て、現在は名古屋を拠点に活動するフリーランスライター・編集者。幼少期から「ローカル」を感じる店や人が好きで、大学ではまちづくり・都市政策を研究していた。