今月でスタート社を退所

 嵐の松本潤(40)が今月30日をもって「STARTO ENTERTAINMENT(以下、スタート社)」を退所する。同社を離れたあとは、2016年と18年に放送されたTBS「日曜劇場『99.9−刑事専門弁護士−』」の続々編への主演とCMの仕事が決まっている。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

「嵐」のメンバーで昨年11月にスマイルアップ社(旧ジャニーズ事務所)を退所した二宮和也(40)は7月からTBS「日曜劇場 ブラックペアン シーズン2」に主演する。一方で松本潤はスタート社にとどまったままだと「日曜劇場」への出演は不可能だった。

「日曜劇場」のスポンサー料を出し合っている提供4社のうち、サントリー、花王、日本生命は昨年9月に故・ジャニー喜多川氏の性加害が社会問題化した時点で同事務所との取引をやめた。それがスタート社になっても続いているためである。

 普段は気にも留めないが、ドラマの出演俳優とスポンサーは深く関わり合っている。サントリーのコーヒー飲料、ビールのCMにそれぞれ出ている役所広司(68)と堺雅人(50)は「日曜劇場」の常連。最近では2人で「VIVANT」(昨年9月終了)に出演した。

「アトムの童」(2022年12月終了)に主演した山崎賢人(29)はサントリーのビール、ハナコの岡部大はサントリーのハイボールと日本生命のCMに出ている。

「VIVANT」「この世界の片隅に」(2018年9月終了)に出演した松坂桃李(35)は「花王」の洗剤のCMに出演中。「天国と地獄〜サイコな2人」(2021年3月終了)に主演した綾瀬はるか(39)は日本生命の顔だ。スポンサーの方向性に逆行するキャスティングはあり得ない。

 松本はスタート社にとどまっていたら、民放随一の花形ドラマ枠である「日曜劇場」への出演は閉ざされた。しかし、退所すれば状況は一変する。ドラマ界の事情に精通している大手芸能事務所の幹部が語る。

「松本氏は『日曜劇場』への主演の話があったから、退所を決めたのだろう。二宮氏も『ブラックペアン』への出演依頼が来たあと、退所した」(大手芸能事務所幹部)

退所後の作品は「99.9」

 松本の作品は「99.9−刑事専門弁護士−」の第3弾になるという。

「俳優側は役柄や印象が固定されてしまうので続編をあまり好まないが、局側としては高視聴率が見込める作品だから、やりたい。来年の1月クール(冬ドラマ)になるようだ」(同・大手芸能事務所幹部)

 デイリー新潮は4月19日付で「『株式会社嵐』設立は独立への布石」と報じ、「旧ジャニーズ事務所へのペナルティがカギ」と伝えた。先に退所した二宮がペナルティから解放され、仕事が順調だから、ほかのメンバーも退所を視野に入れるのはごく自然な流れである。

 二宮は大河ドラマ「光る君へ」などNHKドラマへの出演も取りざたされている。不思議な話ではない。だが、松本はスタート社を出ないと同局への出演も不可能だった。NHKが局としてスタート社のタレントの起用停止を続けているからだ。

 俳優としての松本にとって、ドラマ王国のNHKにこのまま出演できないとなったら、痛いどころの騒ぎではない。それは昨年の大河ドラマ「どうする家康」に主演した松本が一番よく知っているはず。退所は自明のこととすら言えた。

 NHKのスタート社へのペナルティの理由は性加害の補償問題が解決していないためなのは知られているとおり。5月中旬時点で性加害の被害申告者は989人いるが、補償支払完了者は395人にしか達していない。

 NHKはスマイル社とスタート社の独立性についても気にしている。旧ジャニーズ事務所の社長だった藤島ジュリー景子氏(57)は補償に専念すると公言したが、両社に関わるグループ企業4社の会長をまだ務めている。両社が完全に分離しているとは言いがたい。

 このままではスタート社のタレントは、いつからNHKに出られるのか分からない。所属タレントたちは不安を抱いているだろう。

 CMの問題もある。二宮はJCBカードのCMが昨年9月に一度は終了したものの、4月に再開した。退所効果である。一方、松本潤は第一三共などのCMが止まったまま。しかし、スタート社を離れれば状況が変わる。

「退所次第、CM契約が交わされることが決まっている。2社になるようだ」(別の芸能事務所のCM担当者)

残る3人の行方

 現在の芸能界の関心事は大野智(43)、櫻井翔(42)、相葉雅紀(41)はスタート社を辞めるのか、辞める場合の時期はいつなのかに移っている。

 キャリアや人気によって、タレントはスタート社にいたほうがプラスなのかどうかが分かれるが、独力で仕事が得られる「嵐」のメンバーの場合、会社にとどまることによるデメリットが目に付く。

 残る3人はどうするのか。まず、次の退所者は大野と見られている。2021年から芸能活動を休止した理由の1つが、ジュリー氏と女性誌記事への扱いについて意見が対立したからで、ジュリー氏のカラーが拭いきれていないスタート社に愛着を感じにくいと思われるからだ。

 大野は表舞台から消えていたものの、俳優とアーチストとしての評価は高い。第一線に短期間で返り咲くのは難しくないはず。メンバーからの人望もある。

 櫻井もアフラック生命保険などのCMが性加害問題で消えたこともあり、やはり退所が視野に入るだろう。ただし、櫻井はジュリー氏の実母の故・メリー喜多川会長に寵愛された。2006年から務める日本テレビ「news zero」のキャスター業も、メリー氏と同局元会長の故・氏家齊一郎氏のトップ会談で決まった。その義理を本人がどう捉えるかである。

 相葉はバラエティ畑の仕事が多く、俳優としての仕事が少なめで、NHKともやや距離があることから、退所は目の前の問題ではないかも知れない。ジュリー氏との関係も良かった。一方でエバラ食品工業などのCMが終了したことから、やはり退所を考えないわけにはいかないだろう。

「誰が辞めても責められない。タレントはやりたい仕事が出来ない会社にはとどまらない。普通の社会人と同じ。しかも仕事がやりにくい理由は会社側にあるのだから、会社都合退職みたいなもの」(同・大手芸能事務所幹部)

 5人全員がスタート社を離れる可能性もある。いっそのこと「嵐」のグループごと独立したほうが分かりやすい気がするが、「それは得策ではない」(同・大手芸能事務所幹部)という。

「独立して、個人として俳優やタレントをやる分には、事務所の家賃と人件費で、月300万円もあれば足りる。しかし『嵐』としてコンサートをやるとなると、その準備には億単位の資金が必要となる。相当数の人手も必要となる。『嵐』としてはノウハウも資金もある大組織のスタート社にとどまるのが賢明」(同・大手芸能事務所幹部)

「嵐」はジャニー氏が育てた正統派の国民的アイドルグループだが、ジャニー氏によって異端の形態になりつつある。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部