『かわいいのルール』という小学校高学年女子向けの書籍が、大人の、しかも男性からの支持を受け、異例のヒット作となっている。「社員研修に使いたい」「マネジメントのための本」といった声が上がるが、一体どんな内容なのだろうか。

児童実用書では後発

 話題の児童実用書『自分をもっと好きになる【ハピかわ】かわいいのルール』 には、給食の配膳のコツやランドセルの手入れの仕方など、小学生ならではの情報が載っている一方で《知らないことを、素直に「知らない」と言える人って、ステキ!》《ネガティブなあいづちはNG!》と大人でも参考になりそうなコミュニケーションの工夫も紹介されている。

 編集担当の池田書店の老沼友美さんに話を聞いた。

「小学4年生から6年生の女子向けの『キラキラ系実用書』の新しいシリーズとして、2019年に発売したのが『かわいいのルール』でした。女子小学生が好む、ファッションやメイク、心理テストなどを取り上げた書籍は、当時、さまざまな出版社から出ており飽和状態でした。それまで『可愛くなろう』『みんなに好かれる女子になろう』といった他人軸の評価に重きをおいた内容の本が多かった中で、後発となるわれわれは『見た目だけでなく、内面をみがく』というテーマで差別化することにしたんです」

 いかにも女子小学生ウケしそうなパステルブルーの表紙には、漫画家の双葉陽さんが描いた女の子のイラストがふんだんに使われ、《かわいくなるってこういうこと》《ステキ女子の新常識》とキラキラした文言が並ぶ。

「『かわいいのルール』は、小学生の女の子がクラスメイトや転校生と出会いながら、マナーやファッションなどを学び、“ステキ女子”を目指していくストーリーの漫画が軸となっています。漫画の合間には、『#ヒミツのはなし』というコラムがあり、小学生にありがちな体の悩みや友達関係の悩みについて解説しています」

11万部突破

 2019年の発売からしばらく経ち、あるSNSの投稿がブームのきっかけとなった。小学生の娘が、持ち物の確認をお願いするメモを残しており、その内容に娘の気遣いを感じたという母親の投稿だった。そして、娘がこんな風に丁寧にお願いできるようになったのは、『かわいいのルール』を読んだ影響があったのかも……というものだった。

 それから約5年経ち、今年に入ってからも再びSNSでバズった。

 営業担当の高木智華子さんによると、「今年の3月頃に、Xで40代の女性が『社会人のマナーを学べた』とこの本を紹介してくださいました。さらに、同じく40代の男性が『本の構成がすごい』と考察のような内容を投稿してくださり、一時は書店などで手に入りづらいほどの売れゆきになりました。子どもだけじゃなく大人が読んでも役に立つ、という視点で話題になったのは予想外でした」という。

 初版は1万部で、現在は11万部を突破した。Amazonでは男性と見られる読者から《女児向けを超えて全ての人の人生の教科書だと思います》《大人でもマナーの復習が出来る》《婚活本より、ためになる!》といったレビューが投稿されている。

「ビジネス書みたいなレビューが付いたり、コンサルタントの人が『新人研修の教材に使える』と言ってくれたり……。本当かな? とも思いますが、ありがたいです。電子書籍の売上も伸びていて、Amazonキンドルランキングでは、児童書ジャンルでなく、総合で1位になったこともあります。特に男性の方には、可愛い表紙の書籍を買うのに抵抗がある人もいると思うので、電子で読んで頂くことが多いのだと思います」(高木さん)

大人に相談しづらい悩み

 編集の工夫について、先の老沼さんに聞いた。

「Xで考察されていた方も書かれていましたが、本の前半、パッと目に入るカラーページは、コーディネートやヘアアレンジの紹介など、子どもが興味を持ちやすい内容にしています。後半は、前向きな考え方をする工夫や気持ちの伝え方など、本書のテーマでもある『内面をみがく』ことについて取り上げています。また、あまり目立たない1色刷りのコラムページにこそ、子どもたちにじっくり読んでほしい内容が書かれています」

 コラムページには、生理やブラについてなど、小学生が周りの大人に相談しづらそうなことが丁寧に解説してある。

「20代から50代までの編集者が集まってアイデアを出したところ、『大人になった今では当たり前に知っていることでも、小学生のうちに知っておいたら良かったことってたくさんあるよね』と気づいたんです。例えば、生理用のナプキンにズレにくい羽根付きタイプがあることや、ナプキンの包み紙で巻いて捨てる方法など、日々の生活で役に立ちそうな細かい情報を詰め込むことを意識しました」

小学生も大人も同じ悩み?

 大人にも響いた理由については、編集担当の老沼さんも「謎です」とのこと。

「小学生を対象にアンケートを取ったところ、一番の悩みは人間関係で、その次が体のことという結果でした。悩みの内容は、私が小学生だった頃と驚くほど似ていて、時代が変わっても悩みって大きくは変わらないみたいです。今回の反響を考えると、対人関係やコミュニケーションに不安を感じているのは、小学生だけでなく、大人も同じということなのでしょうか」

 もっとも、ブームになったことで、「かわいくなることを押し付けている」「ジェンダーレスの時代に女の子にだけ常識を押し付けるのはどうなのか」といった批判が寄せられたこともあった。

「タイトルを分かりやすくしたのは、手に取ってもらいやすいようにする工夫でした。中身を読んで頂くと『女の子はこうあるべき』と押し付ける内容ではないということが伝わるのではないかと思います。例えば、服装に合わせた仕草やマナーは、男女関係なく大事だと思います。スカートをは いている時に足を開いて座ると、事件や事故に巻き込まれてしまう可能性もあるので、マナーを守ることは、自分を守ることにもつながる。とはいえ、この本は5年前に発売されたものなので、今になるともう少し表現に気を使った方がいいのではと思うところもあります」

『かわいいのルール』から始まったハピかわシリーズは、『こころのルール』『ことばのルール』『うらない大事典』『かたづけのルール』『お菓子のレシピ』『心理テストBook』『文字・イラストBook』など計8冊が刊行されている。

「シリーズを通して伝えたいことは、『自分のことを好きになろう』『他者との出会いで人は変わっていく』というメッセージです。多感な時期の子どもたちにぜひ読んでもらいたいです」

デイリー新潮編集部