大人になってから友だちを作るのは難しい。そんな悩みを聞くことがある。学校時代ならクラスというものがあり、その中で自然と友だちができた人も多いだろう。というか半ば強制的に「友だち」を作らせる仕組みが学級制度でもある。約40人が同じ教室という小部屋に朝から夕方まで年単位で軟禁されるわけで、「友だち」を作らずにサバイブするのは難しい。

 だが大人になるとそうもいかない。人間関係は流動的だし、友人がいなくても仕事は回っていく。「友だちを作りましょう」とお節介を焼いてくる担任の先生もいない。仕事仲間はいても友だちができないという人もいるだろう。

 ところで一般に公安警察と呼ばれる集団がある。映画やドラマでは秘密警察のように描かれることも多いが、公安職員の主な仕事の一つは友だち作りだ。

 日本の公安は、危険と目される政治結社や宗教組織を調査対象としてきた。だが正面突破で捜査に入るのでは普通の警察と変わりがない。そこで組織内部に調査協力者を作る。彼らから情報収集をして組織の内実を把握するわけだ。

 いきなり「調査協力者になって下さい」と言って組織の人間が従ってくれるわけがない(逆にそのような人は信頼できない)。ではどうするのかといえば、協力者になってくれそうな人とまず友だちになるところから始めるのだ。

 ここで公安も一般の社会人と同じ悩みにぶつかる。大人同士はどうやって友だちになればいいのか。

 一番重要なのは「きっかけ」の作り方だろう。ドラマのように街でぶつかって、そこから友情や愛情が芽生えることなど、まず起こらない。もし誰か友だちになりたい人がいるなら、趣味など共通点を探すのがいい。

 そこで大事なのは、一対一で友だち関係を作ろうとしないこと。恋愛と違い、友情は一対一である必要がない。食事や映画に誘うにしても、二人きりというのは十分に仲良くなってからでいい。気心が知れていない相手とサシで向き合うにはよほどのコミュニケーション能力が必要とされる。恋愛でなくても、いきなり一対一で誘われるのには抵抗がある人も多い。

「きっかけ」としておすすめなのは、人狼などのゲームだとか、遊園地に行くとか、定番のゴルフだとか、大人数でできること。ただの食事会よりも、フリートークが少ない場を設定した方がいい。話題を自分たちで決めないとならない食事会と違い、ゲームやゴルフでは必然的に議題が決まるので、無理して次の話題を考える必要もない。

 できれば単にゲームや遊園地に誘うよりも「新しくできた麻布台のチームラボって興味ありませんか」や「中国ではカラオケより人気のマーダーミステリーに行きませんか」といった具合に、一つ情報を増やしてあげると向こうも誘いに乗りやすくなる。もし大して仲良くない人からいきなりチームラボに誘われたら、公安からのアプローチかもしれない(そんな訳ない)。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

「週刊新潮」2024年5月23日号 掲載