みどりの窓口削減、一時凍結が決定

 JR東日本は5月8日、みどりの窓口の削減を一時凍結すると発表した。2021年に同社は、切符をネットで購入するチケットレス化の推進を決定。その一環として、2025年までに、440カ所にあったみどりの窓口を140カ所まで削減する計画を立てていた。その計画は順調に進み、5月8日時点で半数以下の209ヶ所まで減少していた。

 しかし、コロナ騒動が終息して国内の旅行需要が回復したことや、インバウンドの回復に伴い、みどりの窓口は慢性的に混雑するようになった。そして、今年の4月は定期券の購入シーズンも重なり、駅に長蛇の列ができていた。GWには利用者が押しかけて窓口が大混乱となり、時には怒号が発せられるなど、未曽有の混雑が続いていた。

 なぜ、チケットレス化が進まなかったのか。理由はシンプルで、アプリや指定席券売機で買えない切符が多すぎるためである。特に指定席券売機は、少しでも複雑な切符を買おうとすると対応できず、使い物にならない。ネットで切符を購入できる「えきねっと」などのシステムも使い勝手が非常に悪く、JR東日本とJR東海とJR西日本でシステムが異なるのも大問題である。

 筆者は、すべての利用者が満足するような鉄道のチケットレス化は「不可能」だと考えている。飛行機や高速バスのように、単純なルートを通る乗り物ならチケットレスは容易だ。対して、鉄道は料金システムもルートも極めて複雑であり、目的地に着くまでにJR数社を跨ぐことも多く、乗り換えが複数回に及ぶケースもザラなので、チケットレス化は難しいのである。

 それでもチケットレス化を進めたいのであれば、せめてネットで切符を購入できるシステムやアプリはJR全社で統一して欲しいものだが、依然としてバラバラである。その点、みどりの窓口であればJR各社を跨ぐ切符も発券できる。現状、みどりの窓口に勝る切符の発券システムは存在しないのだ。とりわけ、アプリが中途半端な仕様であることが、チケットレス化が進まない最大の要因と考えられる。

切符を買うためなら窓口のある駅まで無料で移動できる

 ところで、JR東日本側も積極的にPRしていないので、知らない人も多いと思うが、みどりの窓口がない駅から「切符を買う目的」で鉄道を利用する場合、みどりの窓口がある駅までの往復運賃は払い戻してもらえるのだ。正確には、切符を購入した際に片道を窓口で払い戻してもらい、帰りの乗車票をもらう仕組みである。

 駅の券売機の横に、往復運賃を払い戻す旨が書かれたポスターが貼られているのだが、気づいている人はどれだけいるだろうか。何も知らない人は、クソ真面目に往復の乗車券を払って切符を買いに行っているかもしれない。利用者に不便を強いているのだから当然の対応だが、もっと大々的に告知すべきであろう。

 このシステムを利用し、5月21日(火)、筆者の最寄り駅のひとつである南越谷駅から大宮駅まで切符を買いに行ってみた。南越谷駅はみどりの窓口が消滅し、その代替としてオペレーターと会話しながら切符を購入できる「話せる指定席券売機」がある。しかし、平日でも行列ができているし、そもそもこの券売機で買えない切符も多い。

 みどりの窓口がある近場の駅は武蔵浦和駅だが、窓口のカウンターが1ヶ所しかないため慢性的に混雑しているし、その近くの浦和駅も同様に列ができやすい。南越谷駅の駅員に話を聞くと、大宮駅もしくは赤羽駅までなら、みどりの窓口の利用のために鉄道を利用してもいいという。埼玉県のターミナルの大宮駅なら、窓口にカウンターが複数あるだろうし、少しは早いだろう……と思ったが、考えが甘かった。

大宮駅のみどりの窓口で順番待ち

 南越谷駅で大宮駅までの切符を買い、電車に揺られて片道25分(途中、南浦和駅で乗り換えが生じる)。大宮駅の改札で「窓口を利用しに来ました」と告げると、切符は回収されず、そのまま通される。みどりの窓口に着くと、行列が見当たらず、カウンターも4ヶ所が稼働している。これならすぐ買えそうだ……と思ったら、何やら椅子に座って待っている人がいた。

 なんと、2月1日より大宮駅のみどりの窓口は、番号札をとって順番を待つシステムに変更されていたのである。筆者が番号札を取ろうとする前は、なんと“40人待ち”であった。唖然とした。繰り返すようだが、取材日は5月21日の平日、窓口に着いたのは昼過ぎの13時20分頃である。そんな時間でこの待ち人数なのだ。土曜、日曜、祝日はいったいどんなことになっているのだろう。

 調べてみると、大宮駅の近くの駅からはことごとくみどりの窓口がなくなっている。特に、通勤・通学の利用者が多く、埼玉を代表する観光地である川越駅からも窓口をなくしたのは、やりすぎではないだろうか。素人の考えでも、川越駅は絶対に窓口が必要である。こういった駅からも窓口をなくしてしまったことが、大宮駅に利用者が集中する理由であろう。

 みどりの窓口には椅子が並び、高齢者からサラリーマンまで、利用者がスマホをいじりながら順番を待っている。一方、隣接する指定席券売機は利用者がほとんどおらず、ガラガラだ。指定席券売機は鉄道を普段から利用しない人にとっては、操作がわかりにくい。そのため、特に機械に不慣れな高齢者は、窓口に並んでしまうのである。

 近年、JR東日本は鉄道会社というより、テナント業者のようになっている。大宮駅では、みどりの窓口の横に「Eki Tabi MARKET(えきたびマーケット)」という地方の商品を売るブースが設けられていた。しかし、取材日にあまり客はいなかった。ご当地商品を売る場よりも、利用者が求めているのは切符を売る場の拡充ではないだろうか。

削減を凍結させるのではなく、窓口を復活させるべき

 結局、約60分待って、ようやく案内された。窓口で切符を買い、南越谷駅で買った片道分の切符を出すと、運賃320円が払い戻された。そして駅員が、大宮駅発・南越谷駅行きの乗車票を作ってくれた。駅員はベテランで、こちらの要望にもスムーズに対応してくれた。やはり、人の手で切符を発券してもらう安心感は何物にも代えがたい。

 これにて完了だが、とにかく切符を買うだけなのに時間がかかりすぎである。筆者が待っている間も、短気そうなオッサンが駅員と揉めていた。「おまえらが窓口をなくすから問題なんだろ」と怒鳴り、窓口の駅員では対応できないのか、奥から上司と思われる駅員が出てきて対応していた。こういったトラブルは日常茶飯事だと思うし、現場の駅員が気の毒で仕方なかった。

 利用者にとってのメリットを考えるなら、切符を買いさえすれば、無料でちょっとしたプチ旅行が楽しめる……というくらいだろう。筆者も空き時間に、大宮でショッピングを楽しんだ。といっても、無理やりメリットと考えているだけで、切符を買うためだけに移動するのはどう考えても時間の無駄である。一刻も早く、アプリもしくは指定席券売機に窓口並みの機能をもたせてほしいものだ。

 さて、JR東日本は窓口削減を一時凍結したが、みどりの窓口が混雑していることには変わりない。筆者は、アプリや指定席券売機の機能が窓口並みになるまでは、みどりの窓口を復活させるべきだと考える。先に挙げた川越駅は絶対に窓口が必要だし、東京屈指のターミナルである北千住駅もなぜ窓口をなくしてしまったのか、理解に苦しむ。都心の山手線や京浜東北線、中央線などは、全駅にあったほうがいいくらいだ。

 7月には夏休みシーズンが到来し、8月にはお盆の帰省シーズンが到来する。それまでにJR東日本がどこまでシステムを改良できるか、手腕が試されている。もっとも、一番簡単な混雑回避策は、みどりの窓口の復活であることに変わりはないと思う。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部