庶民が海外旅行に行けなくなる一方…

 円安の影響により庶民の足が海外からすっかり遠のいている一方で、岸田文雄総理(66)を含む14閣僚が今年の大型連休期間中に外遊に飛び立った。それらの外交的成果に疑問符が付される上、渡航費だけで総額は10億円超とみられ……。【前後編の前編】

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 一時、1ドル=160円台まで進んだ円相場は政府・日銀の為替介入などによって小康状態を保ち、直近は155円台前後で推移している。それでも1990年以来の円安水準だ。大型連休も国内の観光地が人気で、国外の旅行先には韓国や台湾などの近場が選ばれており、外国は気楽に行ける場所ではなくなった。

 一方で、庶民の金銭感覚とはとことん無縁なのが、国会議員たちだ。

「ゴールデンウイーク(GW)の期間中、衆議院議員のべ34人が『請暇(せいか)』(休暇の願い出)の届けを出しています。特に、岸田内閣では14閣僚がGWを外遊先で過ごしました」(政治部デスク)

 無論、筆頭は岸田総理である。衆院3補選で全敗した直後の今月1日、東京・羽田空港から政府専用機でフランスのパリ・オルリー空港に向けて出立し、

「マクロン大統領やアタル首相と意見交換したほか、経済協力開発機構(OECD)本部で開かれたOECD閣僚理事会開会式に参加しました」(同)

 2日(現地時間)には約10時間かけて大西洋を横断。ブラジルの首都・ブラジリアで3日(現地時間)、ルーラ大統領と会談を行うと、その日のうちにパラグアイの首都・アスンシオンに移動し、同国のペニャ大統領とも対面。4日(現地時間)、帰国の途に就いたのである。

「『ドラゴンボール』で大統領らの歓心を買おうと」

 総理が6日(日本時間)に羽田空港に戻るまでの総移動距離は地球約1周分にも及んだのだが、

「先月の訪米時に比べても、その外交的成果はかなり見劣りします」

 とは前出のデスク。

「先月、総理は米国・上下両院合同会議で演説を行ったのですが、その内容は現地でも話題となりました。ですが今回、総理がマクロン大統領と会談したことを報じた現地メディアはほとんどなかった。今月5日から7日まで国賓としてフランスを訪問した中国の習近平国家主席とは、扱いに雲泥の差が生まれ、総理の訪仏はかすんでしまいました」(同)

 遠路はるばる、約15時間かけて赴いた彼の地で、岸田総理は存在感をまったくといっていいほど発揮できなかったというのだ。

 ただ一つ、現地で取り上げられたのは、岸田総理がマクロン大統領に「ドラゴンボール」のキャラクターがデザインされた江戸切子のグラスを、アタル首相に同キャラがあしらわれたこけしをプレゼントしたことくらい。

「日本の漫画・アニメはフランス人に大人気で、マクロン大統領もその例に漏れない。『ドラゴンボール』の作者の鳥山明氏が今年3月に死去した際、マクロン大統領はSNSに追悼メッセージを投稿しています。外交上の手土産がない総理は、『ドラゴンボール』で大統領らの歓心を買おうとしたのです」(同)

南米訪問は成果なし?

 だがその肝心の贈り物に関しても、水面下ではケチがついていた。

「日本政府は事前に江戸切子とこけしの両方とも、その画像を報道素材としてメディアに公開する予定でした。ところが、配布されたのはこけしの画像のみ。理由は“NGが出た”から。江戸切子の製造・販売側が岸田総理の意図を見透かし、『ドラゴンボール』の政治利用を嫌がったと聞いています」(同)

 頼みの綱であった人気漫画を使ったアピールも、中途半端な形で終わってしまったというのである。

 では、南米訪問はどうだったか。特にブラジルは南米最大の経済大国である一方、「左派のルーラ大統領は米国と中国をはかりにかけている」(同)といわれる。同国を自由主義陣営に引き留めておくことは、日本の経済安全保障上も重要だ。

 だが、先のデスクは、

「日本はブラジルにアピールできるポイントがなかった。お題目のように“法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化”を唱えても、先方に響くわけがありません。共同記者発表はルーラ大統領の独演会となり、“(ブラジルの)牛肉をぜひ輸入していただきたい。首相も口にすれば、もう日本に帰りたくなくなる”などと、自国の売り込みばかりに終始したのです」

 岸田総理には中国の動向を見据えてグローバル・サウスとの連携を強めたいとの意図があったとみられるが、その考えを共有できたとは到底いえまい。

「歓迎の意を読み取ることはできない」

 前駐豪大使で『日本外交の劣化 再生への道』(文藝春秋)を上梓したばかりの山上信吾氏は総理のGW外遊について、

「行かないよりは、行った方がよかった」

 と語りながら、以下のように苦言を呈する。

「OECD閣僚理事会が開催されたフランスはともかく、なぜ、ブラジルの訪問も5月の大型連休中になってしまったのか。日本は昨年のG7の議長国であったし、かつ昨年と今年は国連安全保障理事会の非常任理事国であるわけです。国際社会での責任を果たし、両国の関係を強化するためには、本来なら、ブラジルがG20の議長国となった年明けにも足を運ぶべきでした」

 続けて、

「裏金問題もあり、総理の国内での政治基盤は弱っています。当然、そのことは駐日大使館を通じて諸外国の首脳陣にも伝わっている。フランスのマクロン大統領やブラジルのルーラ大統領が総理と一緒に写った写真を見てみてください。総理は大きく笑っていますが、マクロン大統領もルーラ大統領もそんなに笑みは浮かべておらず、歓迎の意を読み取ることはできません」

 悲しいかな、相手国には望まれぬ外遊だったのではないかというのである。

「渡航費だけでも、総額で10億円を優に超すとみられている」

 しかし、それは日本国民にも同じことだ。なにしろ、

「総理を含む外遊した閣僚全員が渡航費や宿泊費を税金で賄っている。渡航費だけでも、総額で10億円を優に超すものとみられています」(前出・デスク)

 実際、岸田総理は本誌(「週刊新潮」)の取材に書面で、

〈費用については公費で支弁しています〉

 と回答。ほかの閣僚も費用の元手については「公費」としつつ、外遊の目的については各々、

〈OECD閣僚理事会出席、政府要人との会談、欧州の先端技術・スタートアップ関連施設の視察等の公務を行った〉(新藤経済再生担当相)

〈博覧会国際事務局長との会談等の公務を行った〉(自見国際博覧会担当相)

〈国際的なデータガバナンスに関する議論を深め、日本の国際的なデジタル分野での貢献並びに影響力の向上を図る〉(河野デジタル相)

〈日米豪比・日米豪・日米防衛相会談等を開催するため〉(木原防衛相)

 などと述べ、その意義を強調する。

 だがこの点、政治アナリストの伊藤惇夫氏は、

「外遊する際に、政治家はそれなりの理由を後からつけるものです。閣僚が外国に行って成果を上げた例は、71年、通産大臣だった田中角栄が日米繊維交渉で問題を処理したことくらいしか思い付きません」

 と手厳しい。後編では、「朝食のオムレツは固め」などのトリセツが存在し、外遊先でVIP待遇を受ける人物の名前について報じる。

「週刊新潮」2024年5月23日号 掲載