パリ五輪のアジア最終予選をかねたU-23アジアカップの準決勝、日本はイラクをFW細谷真大とMF荒木遼太郎のゴールで2−0と下し、決勝戦に進出すると同時に今大会の上位3チームに与えられるパリ五輪の出場権を獲得した。日本の五輪出場は8大会連続12回目となる。

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 今大会5試合目で日本はベストゲームを展開した。その理由は簡単、今大会で初めて中盤にMF藤田譲瑠チマとMF松木玖生だけでなく、荒木を起用したからだ。準々決勝のカタール戦ではサイドからのクロスという単調な攻撃に終始したが、荒木が入ったことで中央からの攻撃が増えた。

 前半28分の先制点は好ポジションでDFラインからのパスを引き出した藤田のタテパスを、細谷が絶妙なトラップとターンからのワンタッチでシュート態勢を作り、彼にしては珍しいコントロールシュートで決めた。

 細谷は前半10分にも藤田からのスルーパスに抜け出し、左足でGKの脚の間を狙ったシュートを放ったものの、これはブロックされた。イラクGKも準々決勝のカタール戦の、細谷の強シュートによる決勝点を想定していたのかもしれない。

 そうした駆け引きからプレーを切り替えられるところ、細谷は今大会初ゴールによる余裕が生まれたとみていいだだろう。そして藤田は日本ボールになると、絶えずポジションを変えながらDFラインからパスを引き出し、日本の攻撃をコントロールした。

荒木と松木の同時起用

 この藤田の動きに呼応したのが荒木である。前半は左サイドに流れてフリーになることが多かったが、これはMF平河悠とのコンビによる攻撃を意識したからかもしれない。簡単にボールをロストすることなく、決定的なパスや積極的なミドルに日本の攻撃にリズムをもたらした。

 そして松木は、イラク戦では荒木と藤田が攻撃のリズムを作ったことで中盤のバランサーに徹しつつ、チャンスになれば果敢にミドルシュートでゴールを狙ったし、イラクのカウンターには身を挺して阻止した。

 追加点は前半42分、左サイドで粘ったSB大畑歩夢のクロスを中央で藤田がワンタッチで前方にパス。これに反応した荒木が抜け出し冷静に右スミに流し込んだ。前半の日本の決定機は10分の細谷のシュートも含めて3回。そのうち2回を確実に仕留めて2点のアドバンテージを得たことは大きい。

 その一番の理由は荒木と松木を同時起用したことは言うまでもない。そして、これが大岩剛監督の今大会におけるプラン通りだったとしたら恐れ入るしかない。

稀代の策士

 大会は中2日の連戦のためターンオーバーを採用せざるを得ない。そうした条件で、まずはグループリーグ初戦の中国戦は勝利が必要だ。そして「負ければ終わり」の準々決勝のカタール戦もベストメンバーで臨みたいのは当然のこと。

 しかし、五輪の出場権がかかった準決勝まで藤田、松木、荒木の3人同時のスタメン起用は隠してきた。準々決勝のカタール戦では松木が前半に警告を受けると後半はFW藤尾翔太と交代させた。

 イラクが主力のキャプテンを準々決勝のベトナム戦で警告2枚目から日本戦に出場できなかったことを振り返ると、松木の交代にも深謀遠慮がうかがえる。

 これら全てが五輪キップをつかむため、準決勝を勝ち抜くためのプランであり選手起用だとしたら、大岩監督は稀代の策士と言っていいだろう。

 後半は前線に人数を増やして攻勢に出たイラクに危ないシーンを作られた。その分、手薄なイラク守備陣を急襲して決定機も作ったが、決めきれずにイラクの息の根を止められなかったのは決勝戦への反省材料にすればいい。

心憎い采配

 それよりも気になったのは、初戦でエルボーから退場処分を受けたCB西尾隆矢を起用するかどうかだった。ほぼ勝利を確信できたと思う後半45分、4試合ぶりに西尾と、FW内野航太郎を起用した。心憎い采配である。

 今大会の決勝戦の相手はインドネシアを2−0で退けたウズベキスタンだ。グループリーグの相手に恵まれたとはいえ、ここまでの5試合で無失点というのは脅威である。そんな相手にどんな試合を挑むのか。そしてスタメンはどうするのか。今大会での大岩ジャパンのファイナルマッチが楽しみである。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

デイリー新潮編集部