2007年の急逝後、所属事務所に献花台が設けられ、ファンは別れを惜しんだ。画像の一部を加工しています

 音楽ユニット「ZARD」のボーカル・坂井泉水さんの17回目の命日となる5月27日に、ZARDが2004年に行った唯一の全国ライブツアー「What a beautiful moment tour」の映像が全国19の映画館で上映される。同映像は20年に「ZARD 30周年YEAR記念作品」として初上映され、今回が4回目のアンコール上映。また、昨年に引き続き献花台が同日、東京、大阪に設置される。

 1991年にZARDのボーカルとして歌手デビューした坂井さん。その後、「負けないで」「君がいない」「揺れる想い」などヒット曲を連発。ミステリアスではかなさが漂うビジュアルも注目され、90年代を代表する女性シンガーとして支持を集めた。だが、2007年、不慮の事故により40歳という若さで亡くなった。没後17年たってもなお、SNS上では「今年も、泉水さんに会いに行きます」「献花行こうかな」などの声があふれ、いつまでもファンの心の中で生き続けていることがわかる。

「亡くなって17年がたった今でも、21年にオリコンが行ったZARDに関するアンケートでは、認知率は9割超え。さらに、うち約6割が『とても好き・好き』と回答しています。好感を持っている人を世代別で見ると、40〜50代以上が約7割を占めるも、10代〜20代、30代もそれぞれ1割を超えました。ZARDは『スラムダンク』や『名探偵コナン』といったアニメソングも担当しているので、若い世代はそうしたアニメを通して知った人も多いそうです」(音楽ライター)

スタジオをイメージした「偲ぶ会」の祭壇(2007年)

■自分を「体育会系」を話す

 リアルタイムで90年代の活躍を知っている世代だけでなく、若者からも支持を集める坂井さんだが、代表曲の「負けないで」は長らく日本テレビ系「24時間テレビ」の定番曲となっており、誰もが口ずさむ国民的ソングといってもいいだろう。

「『負けないで』は14年に高校英語の教科書に採用。人の心に希望や勇気を与える歌として、坂井さんが言葉にこだわって制作したことや、何度も書き直された直筆の歌詞とともに紹介されました。ZARDの楽曲の作詞は、ほぼ全て坂井さんが担当していましたが、今でも印象に残る歌詞が本当に多いですね」(同)

 多くの人の心に響く歌詞を生み出してきた坂井さん。透き通るような爽やかな歌声とともに、どの世代にも伝わりやすい歌詞を書いていたところも魅力の一つだろう。

「マネー現代」(23年1月28日配信)では、過去に坂井さんに何度も取材したことのある音楽ライターの伊藤博伸氏が、坂井さんのエピソードを回想。坂井さんは自身を「体育会系」と話し、曲を完成させるためには一切妥協せず、実際に「自分が納得するまで歌詞を書き直す」と、取材で語っていたという。また、デビューした当初はその美貌から男性ファンが多かったが、「負けないで」以降は坂井さんの詞に共感してファンになる女性が増えていったそうだ。

■中島健人や赤楚衛二もZARD好き 

 前出の音楽ライターは言う。

「ZARDの現場ディレクターを務めた寺尾広氏は、坂井さんについて、最初から起承転結やストーリーがあるわけでもないのに、最終的には歌詞を物語にさせてしまうのがすごいと以前にインタビューで語っていました。また、05年発売の『君とのDistance』というアルバムの歌詞が間に合わなさそうになり、大阪での打ち合わせの際に、『いろいろ書いて持ってきてください』と言ったところ、坂井さんはキャリーバッグを2個持ってきて、その中身が全部歌詞だったこともあったそうです。もともとの作詞能力の高さに加え、そうしたストイックさがあったからこそ、楽曲がいつまでも人々の心に残っているのかもしれません」

 一方で、テレビ情報誌の編集者は「坂井さんのルックスは今でも色あせない」と話す。

「当時から、ほぼノーメークと思わせるような飾らないルックスも人気だった坂井さん。ZARDのコーラスに参加していたこともある大黒摩季さんは、『見たことないタイプで、キラキラしていて品があって、本当にすてきな女性』と、昨年放送された番組で振り返っていました。以前放送されたバラエティー番組では、中島健人さんと赤楚衛二さんが2人の好みの女性のタイプが同じで、具体的に『ZARD系女子』と告白。坂井さんのような女性が好きで、中島が『横顔がきれいで伏し目がちで』と、その理由を説明していました。いまだ若い人気俳優から好みのタイプとして挙げられるだけでもすごいのに、そのうえ、誰もが共感できる歌詞が書けるので女性からも支持される。今では、坂井さんのような歌手はなかなか見当たりません」

2021年、ZARDの歌詞の世界を展示する「ZARD/坂井泉水 心に響くことば展」が開催された

■公の場にはほとんど出なかった

 芸能ジャーナリストの平田昇二氏は、坂井さんの偉大さについてこう述べる。

「坂井さんの透き通った歌声や聴く者にそっと寄り添ってくれるような歌詞の世界観、聞き心地の良いみずみずしいメロディーなどが相まって、ZARDの楽曲は今も多くの人に愛されています。一部の楽曲は人気アニメのテーマソングにも起用されたので、外国の人たちにも楽曲の魅力が伝わり、海外でも聞かれ続けています。坂井さんはCDのジャケット写真などでその美貌が広く知られていた一方、楽曲のブレーク後はほとんど公の場には姿を現さず、ミステリアスな魅力もありました。その後、不慮の事故で突然亡くなられてしまいましたが、当時その死を悼む訃報は国内のみならず海外でも報じられました。そういう意味で坂井さんは世界的なアーティストだったと言えるでしょう」

 今もなお幅広い世代から愛される坂井さん。改めて、じっくりと名曲の数々を聞いてみたい。

(丸山ひろし)