全米オープン、全米女子オープンというUSGA(全米ゴルフ協会)が主催する世界最高峰の大会で、にわかに“特別招待”がクローズアップされている。一つはメジャー100大会連続出場にあと2試合と迫りながら、黄信号が点るアンジェラ・スタンフォードについて。もう一つは、タイガー、チャーリーのウッズ親子についてである。

「特別招待を出す予定はありません」

 米女子ツアー(LPGA)選手のアンジェラ・スタンフォードは2018年エビアン選手権を含む通算7勝を挙げた46歳の米国人選手。今年4月、女子ゴルフ界のメジャー大会であるシェブロン選手権(4月18〜21日、米テキサス州)に出場したことで、メジャー大会連続出場数を「98」に伸ばした。

メジャー100大会連続出場の偉業達成に黄信号が点るアンジェラ・スタンフォード 写真:Getty Images
メジャー100大会連続出場の偉業達成に黄信号が点るアンジェラ・スタンフォード 写真:Getty Images

 この記録でスタンフォードの上を行くのは「146」を保持しているジャック・ニクラスだけである。

「なんとしても連続100回を達成したい」

 心底そう願っていたスタンフォードは、シェブロン選手権で優勝して5月半ばの全米女子オープン出場資格を手に入れようと狙っていたが、残念ながら予選落ちに終わった。

 スタンフォードはすぐさまカリフォルニア州へ移動し、翌週火曜日(4月23日)に開催された全米女子オープン最終予選に挑んだ。しかし、4オーバーを喫したスタンフォードは、本戦出場資格獲得には遠く及ばなかった。

 米メディアによると、スタンフォードはシェブロン選手権の週までは「たとえ最終予選がダメだったとしても、メジャー連続出場記録100にあと2つと迫りつつあるのだから、USGA(全米ゴルフ協会)が特別招待を出してくれると思う」と期待を抱いていたという。

 しかし、USGAは最終予選の直前に彼女にこう言い渡したそうだ。

「特別招待を出す予定はありません」

 背水の陣を強いられたスタンフォードは、より一層必死に最終予選に挑んだが、プレッシャーもより一層増したのかもしれず、彼女のゴルフは乱れ、本戦への切符を獲ることはできずに終わった。

 ちなみに、全米女子オープンまでのLPGAの5月の2大会で優勝すれば、全米女子オープン出場資格を得るチャンスはまだある。だが、USGAからの特別招待を期待して拒否されたショックは大きかったようで、米ゴルフウイークは、その後のスタンフォードのこんな言葉を紹介していた。

「メジャー連続出場100回の大変さや意義を理解してくれない人々もいるということ。でも、理解者であるLPGAやメディア、シェブロン選手権やKPMG、PGA・オブ・アメリカには感謝しています。そして私は自分を誇りに思います」

 感謝の言葉の中に「USGA」という文字がなかったことは、USGAに対する彼女なりの精一杯の不満と批判の表明だったのだろう。

「出るべき選手、出たいと願う選手の貴重な出場枠を奪っている」

 スタンフォードが最終予選に失敗し、落胆した翌々日の4月25日、米フロリダ州ではタイガー・ウッズの長男、15歳のチャーリーくんが全米オープンの地区予選に挑んだ。

 この会場では84名の出場者のうちの上位5名が最終予選へ進むことができる。そして、1日36ホールで競われる最終予選は全米10カ所と世界3カ所で行われ、それぞれの会場で生き残った一握りの選手だけが、パインハーストNo.2で開催される今年6月の全米オープンに出場することができる。

 チャーリーくんは「あのタイガー・ウッズの息子なのだから、ウッズがUSGAに頼めば、特別招待だってもらえるのでは?」と思われるかもしれない。

 だが、ウッズ自身は若いころからPGAツアーでもメジャー大会でも「本当に出るべき選手が出るべきだ」と語り、特別招待というものに対し、厳しい言葉を口にしてきた選手だ。そんなウッズが「ウチの息子を特別に招待してほしい」などと言えるはずがない。

 そんな父親の姿勢を息子も理解しているはずで、チャーリーくんは今年のPGAツアーでも「マンデー予選のための予選」に挑み(結果は敗退)、全米オープンでも地区予選に挑んだのだが、結果は9オーバーを喫し、失敗に終わった。

 ところで、全米オープンや全米女子オープンを主催するUSGAには、「出場資格を満たしてはいないものの、特別に招待したい」と判断した選手を特別に招いてきた歴史的経緯がある。

 男子の全米オープンで初めて特別招待がオファーされたのは、1966年のベン・ホーガンだった。以後は10年ほど特別招待は出されなかったが、1977年のサム・スニード以降は、ほぼ毎年、特別招待がオファーされるようになった。

 1978年から1983年はアーノルド・パーマー、1984年には青木功、1990年代はほぼ毎年、ニクラスが招待され、2000年にはニクラスを含めた6名が特別招待選手となり、「さすがに多すぎる」という批判の嵐が巻き起こった。

 特別招待された選手の多くは、年齢を重ね、成績下降の一途で、全米オープンでの成績も大半は予選落ちというパターンだった。

「出るべき選手、出たいと願う選手の貴重な出場枠を奪っている」

 そんな批判の声を真摯に受け止めたUSGAは、2001年以降は特別招待の人数を1名か、せいぜい2名に絞り、特別招待者ゼロという年も増えている。近年で最後に特別招待されたのは2021年大会のフィル・ミケルソンで、一昨年と昨年は特別招待選手は皆無だった。

 そして今年、スタンフォードに特別招待をオファーしないと決めたUSGAは、こんな声明を出して、その理由を明らかにした。

「全米オープン、全米女子オープンの出場選手の約半数は、地区予選や最終予選を勝ち抜いて出場します。何千人もの選手が獲得を目指す貴重な1枠に対し、USGAが特別招待を出すことは、きわめて稀です。USGAの大会には、スポンサー推薦はなく、メディアのストーリーに左右されたり、開催地の出身選手を優遇することもありません」

「まれに特別招待をオファーする場合は…」

 USGAがスタンフォードやチャーリーくんに特別招待を出さない理由や背景は、お分かりいただけたと思う。

 だが、そんな折、今度は王者ウッズへの特別招待が出るか、出ないかが取り沙汰されている。

 言うまでもなくウッズはメジャー15勝、通算82勝を挙げ、世界ランキング1位の王座に史上最長の通算683週、座り続けた王者である。

 しかし、今年6月の全米オープン出場資格を満たしてはおらず、だからと言ってウッズが最終予選にエントリーした形跡はない。

 ウッズがメジャー大会への出場資格を事前に満たしていないことは、1996年のプロ転向以来、キャリアで初めての事態だが、48歳という年齢と度重なる故障、長期の戦線離脱からすれば、そうなることは時間の問題だった。

 だが、スタンフォードに「特別招待はしない」と言い渡し、「何千人もの選手が獲得を目指す貴重な1枠に対し、USGAが特別招待を出すことは、きわめてまれです」と記した声明を出したばかりのUSGAが、果たしてウッズに特別招待を出すのかどうか。

 しかし、よくよく眺めてみると、USGAの声明には、こんなくだりもある。

「まれに特別招待をオファーする場合は、その選手のこれまでの卓越した成績、とりわけUSGA主催大会における成績、世界ランキング1位を維持した期間、ツアーでの通算勝利数、昨今のパフォーマンスやランキングなどを総合的に考慮して判断します」

 このくだりは、まさにピンポイントでウッズのことを指し示しているように読み取れる。そうであれば、USGAがウッズに今年の全米オープンへの特別招待をオファーする可能性は、きわめて高いと思われる。すでに米メディアは「USGAからの発表は4月末ごろになるだろう」と予想している。

 ちょうどこの記事がみなさんの目に触れるころ、「USGAがタイガー・ウッズに特別招待をオファー」というニュースが出るのではないだろうか。

「何が何でもウッズの姿を見たい」と願うファンにとっては朗報となるに違いない。だが、たとえ相手がウッズであっても、特別招待、特別扱いに首を傾げる人々、悔しさを噛み締める人々がいることだけは、心の隅に置いておいておきたいと私は思う。

文・舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

舩越園子(ゴルフジャーナリスト)