2023年暮れに上陸したアバルト初となる100%電気自動車、アバルト500eに乗った河村康彦さん、塩見智さんのホンネやいかに? 今年もやりました「エンジン・ガイシャ大試乗会」。2024年、大磯大駐車場に集めた注目の輸入車36台にモータージャーナリスト36人が試乗!


「ガイシャのなかのガイシャ」河村康彦

大駐車場に並べられた36台の中にあっても、ひと際大きなアイドリング音を奏でていたのがアバルト500e。

そう、“なり”が小さい事に加えてピュアEVと来ているのに、ある意味「もっとも偉そう」に佇んでいたのがこのモデルだったのだ。

けれどもそんな佇まいは決して期待を裏切らない。アクセルを踏み込んでみれば弾けるようにスタートし、そのまま会場に特設されたスラロームコースに飛び込んでみれば、水すましのようにパイロンをすり抜けてくれる。

インテリアのデザインはフィアット500eに準ずる。ただし、黒いレザーとアルカンターラを大胆に用いることによって、よりスパルタンな印象を与える。

EV航続距離はカタログ値で300kmほどだから、実用上の“安全距離”では寒い時期などきっと200km強に過ぎないはず。となればこのモデルを“飼育”出来るのはセカンドカー、サードカーとしてとなるのだろうが、それでもその走行中は何物にも代えがたい楽しさを味わわせてくれることは保証付きだ。

何となれば、殆ど乗らずにガレージに置いて眺めるだけという使い方だって元気百倍! にさせてくれそう。ガイシャの中のガイシャと賛辞を贈りたくなる1台。

アルカンターラを用いたヘッドレスト一体型のスポーツシートを前席に標準装備する。アルカンターラのステアリング・ホイールもアバルト500eの専用装備となる。


「音が無くても十分楽しい」塩見智

「だのに〜な〜ぜ〜?」。アバルト500eを走らせてすぐ森山直太朗の「若者たち」が頭に浮かんだ。

快適に移動できるのがクルマの本質だ。快適性を左右する静粛性の向上は、エンジニアもユーザーも長年夢見たことのはずだ。電化されたことで自動車は音と振動の低減において大きく前進した。他にも課題が残っているので、今すぐ一気に全モデルを電動化させることはできないが、電化すれば音(と振動)の問題を解決できることがわかった。

なのになぜアクセル操作に連動した疑似エンジン音を車両後部のスピーカーから流すのだ、アバルトよ。いや確かに楽しい。楽しいが、そのうるささを解消するために頑張ってきたのではなかったのか。電気自動車を高性能な内燃機関車に近づけようとするのはナンセンスではないか。つまり我々はクルマの電動化には成功したけれど、“ならでは”の楽しみ方、味わい方は見つけていない。アバルト500eはそのことを教えてくれている。

それはそうと、このクルマは音を付けなくても低重心なので十分楽しい。

カブリオレは電動開閉式ソフトトップを備える。

写真=茂呂幸正(メイン)/神村 聖(サブとリア)

(ENGINE2024年4月号)