BEVブランドへの転換を宣言しているボルボが日本市場においてクーペSUVのC40に続いて投入したXC40のBEVバージョン、XC40リチャージにモータージャーナリストの斎藤慎輔さんと清水草一さん、武田公実さんが試乗。その本音やいかに? 今年もやりました「エンジン・ガイシャ大試乗会」。大磯大駐車場に集めた注目の輸入車36台にモータージャーナリスト36人が試乗した。


「徹頭徹尾さわやかさん」清水草一

本誌読者の皆様にとっては、EVだからといって「わぁすごい」という時期は終わっていると推察する。ひょっとすると、スーパーEVの狂気の加速にも、「もう飽きちゃったよ」という方も少なくないだろう。いまクルマ好きに刺さるEVは、適度にコンパクトで、電費がよくて、航続距離に余裕のある、「中ぐらいなりおらが春」なモデルではないだろうか。

リサイクル素材を混紡したシート表皮やカーペットをはじめ室内の基本となる造形は内燃エンジン搭載のXC40とほぼ変わらない。ただしフロント・フードを開けるとエンジンの代わりに、充電ケーブルを納めてもまだまだ余裕のある使えるラゲッジ・スペースが広がっている。電池容量は73kWh。WLTCモードの一充電走行距離は590km。

ボルボXC40リチャージは、とても中ぐらいで心地いいEVだ。運転していても特筆するようなことはなにも起きず、ただただ平和に風景が後方に流れていく。加速はEVとして実に中ぐらいだし、デザインもインテリアもサワヤカで嫌味ゼロ。エアコンには空気清浄機が付属していて空気もサワヤカだ。

2023年のマイナーチェンジで、FWDからRWDへ大転換を図り、モーターを自社製に変更したのは、電費の改善が目的だ。バッテリー容量を若干増やした結果、カタログ上の航続距離は502kmから590kmに増えている。徹頭徹尾さわやかさんなEVでありながら、本物の進歩を実現しているのである。




「なんだか嬉しくなる」斎藤慎輔

ボルボといえば、いわば安全オタクから環境性能一直線まで、いったん事を始めると徹底しているメーカー。そのくせ、その変わり身の早さも見事なもの。

といっても手段を素早く変えるだけで、目指すところは変わらない。その典型がXC40リチャージなんじゃないか。なんてったって、前輪駆動だった(AWD仕様もあった)ものが、いつの間にか後輪駆動に変えられてきたのは、ちょっとした驚きだっ
た。



そんなことが可能なのは、もちろんBEVだからだけど、それにしても前代未聞。理由はバッテリー・スペースの拡大とかいくつか挙げられてはいるようだけれども、後輪駆動と知るだけで、なんだか嬉しくなってしまうのは、私のような昭和世代では珍しくなさそう。

走らせてみれば、そうそうこれなのよ、この後ろからの蹴り出し感、それに駆動力の影響のないステアリング。あらま、随分とスッキリとしたいい感じになっているじゃないですか。これが、理知的雰囲気をもたらすデザイン、本皮革の使用を一掃したインテリアの車から得られるという意外性もまた悪くないです。


「ちょうど良い」武田公実

1980〜90年代に一大ブームを起こした時代から、筆者がボルボのクルマづくりに感じてきたのは、絶妙の“ちょうど良さ”である。安全性へのこだわりは徹底追求する一方で、内外装の高級感や乗り味では、乗るものを過度に緊張させないユルさを感じさせる。

それはBEV版のXC40でも、大筋では変わってないだろう。電動モーターによる加速力を必要以上にアピールしてこないトルク設定も、前席・後席を問わず乗るものへの優しさのような思いを感じさせる。

内外装の仕立ては導入時からほぼそのままだが、前輪駆動&4輪駆動の2モデル展開から後輪駆動へとラインナップを一新。アルティメット・シングル・モーターというグレード名の通り後軸に配置する最高出力175kW、最大トルク418Nmを発揮するモーターが後輪を駆動する。全長×全幅×全高=4440×1875×1650mm。ホイールベース=2700mm。車両重量=2030kg。車両本体価格=719万円。

天然資源保全のため、本革レザーを使用しない方針のもと採用された、ザックリとしたツイードのような生地のオシャレなシートに釣られてしまった気がしなくもないものの、ボルボに綿々と受け継がれている独特のカジュアル感やファミリー向けの多幸感は、たとえBEVになっても不変のものと感じられた。

やたら先鋭的なキャラクターを押し立てるのがデフォルトと化している感もある現時点のBEVの中にあって、家族や仲間と味わう元気、あるいは優しさを湛えるモデルって、実は貴重なのかもしれない。

写真=郡 大二郎(メイン)/茂呂幸正(サブ)

(ENGINE2024年4月号)