日本におけるホンダ唯一のセダンになっていたアコードが11代目に進化。しかも、レジェンドが勇退した現在は日本市場におけるフラッグシップでもある。そんな車両価格も500万円を超える、ちょっと立派な新型にモータージャーナリストの国沢光宏氏が乗った。


アメリカ人からすると270万円程度で買えるクルマ

私と同年代の諸氏なら、子供の頃に放映されていた『奥さまは魔女』や『わんぱくフリッパー』というアメリカのTVドラマを楽しんだと思う。設定は大金持ちの家庭だと思っていた。なんせ広くて立派な家に住み、大きなクルマを所有し、家電製品がフルに揃ってましたから。我が家といえば、カラーTVこそあったけれど、戦争で焼け野原になった東京に多い貧弱な建物。風呂も無し。やがてドラマの主人公は平均的な家族だったことを知って愕然としました。

水平基調のインパネはオーソドックスなデザインだが、質感は高い。インフォテインメント・システムにはGoogleを搭載。

新しいアコードに乗り、そのときのことを思い出させられた。考えて頂きたい。直近で言うとアメリカの平均年収は日本の2倍。つまり日本だと540万円超のアコードながら、アメリカ人からすると270万円程度で買えるクルマというイメージなのだった。日本で540万円といえば、決して安いクルマじゃない。したがって、それなりの存在感を持つデザインやブランドイメージが必要になってくる。新型アコード、そういった“オーラ”を一切持たない。

なぜかといえば前述の通りアメリカではミドル・クラスのクルマだからだ。日本人からすれば新型アコードを高いクルマだと考え、それなりの高級感を欲するだろう。ところがアメリカ市場をメインとするアコードというクルマ、『奥さまは魔女』や『わんぱくフリッパー』的な中流家族御用達なのだった。540万円のアコードはアメリカ人にとってはその半分程度ということをイメージすればOK。この点を頭のどこかに置いて以下の試乗レポートを読んで頂ければ、と思う。

全長約5mの前輪駆動ということで、大人4人乗車なら室内のスペースは十分以上。

まずエクステリアだけれど、全くもって普通。ミドル・クラスなので存在感を意識する必要も無いということなんだろう。ドアを開けてドライビング・シートに座ると、これまた印象が薄い。ポジティブに評価すれば「飽きない」とか「落ち着く」になる。少し高い価格設定のビジネスホテルという感じ。高額のクルマに要求されるゴージャスさやキラキラ感、素材の良さなどは無し。ただアメリカで販売されている同じ価格帯のライバルと比べれば高い評価になるだろう。


クルマの基本性能が高い

Dレンジをセレクトしてアクセル・ペダルを踏むと、ストロング・ハイブリッド車の文法通りモーターだけで静かに走り出し、タイヤが2〜3転がりするタイミングで発電用エンジンが始動。その電力を使って走る。80km/h以上の巡航状態になると、エンジンと駆動系を直結させ、燃費を稼ぐ。エンジンで発電してモーター駆動するだけの簡易なシステムである日産eパワーと比べ、フリーウェイなど高速巡航時の燃費で優位。



そしてホンダのハイブリッド、新しいアコードからエンジンがスムース&静かになった。エンジンは掛かっているけれど、静かなので気にならない。街中を走っているときのエンジンの存在感の低さではトヨタにも勝るほど。今のところ総合燃費でトヨタのハイブリッド・システム『THSII』に勝てていないが、もう少し燃費を頑張ったら、トヨタと真正面から勝負出来るハイブリッドになるかもしれません。

新型アコードに試乗して「なるほどアメリカで売れるワケだ」と感じたのはクルマ全体の仕上がりだった。ボディの剛性感が高く、サスペンションがしっかり動く。ステアリングを切ればクルマは素直に狙ったラインをトレースしてくれる。アクセル・ペダルを踏むと滑らか&必要なだけの加速をしてくれ、ブレーキのタッチだって回生と油圧を協調制御していることを感じさせない。クルマとしての基本性能を高いレベルでバランスさせている点がアコードの素晴らしさだと思う。

アメリカで同じ価格帯のライバルと比べると、明らかな「良品廉価」。ただ日本での価格は少しばかり厳しい。インバウンドが多いニセコのスキー場なら2000円のラーメンも需要あるだろうけれど、宇都宮の駅前だと2000円相当の素材を使ったとしてもお客が多いとは思えない。書き忘れました。BOSEのオーディオ、日本車の中ではなかなか頑張っている。日本勢で初採用のグーグルアシスタントの仕上がりも上々。試乗したら試聴してみてください。

文=国沢光宏 写真=宮門秀行

■ホンダ・アコードe:HEV
駆動方式 フロント横置きエンジン+モーター 前輪駆動  
全長×全幅×全高 4975×1860×1450mm  
ホイールベース 2830mm  
トレッド 前/後 1590/1615mm  
車両重量(車検証記載前後軸重) 1580kg  
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V+モーター  
総排気量 1993cc  
ボア×ストローク 81.0×96.7mm  
最高出力 エンジン(モーター) 147ps/6100rpm(184ps/5000-8000rpm)  
最大トルク エンジン(モーター) 182Nm/4500rpm(335Nm/0-2000rpm)  
変速機 1段固定  
サスペンション形式 前/後 マクファーソン・ストラット/マルチリンク  
ブレーキ 前/後 通気冷却式スチール・ディスク/ディスク  
タイヤ 前後 235/45R18 98W  
車両価格(税込) 544万9400円  

(ENGINE2024年6月号)