2024年から始まった新NISAは、投資をする方であれば利用しない手はありません。しかし、投資経験や知識がない方は注意が必要です。金融機関が顧客を囲い込むために、強引な営業を行う可能性があるためです。   特に、多くの預貯金を持っている高齢者の方は、金融機関からさまざまな営業や提案を受ける可能性があります。本記事では、後期高齢者の方が新NISAを行う必要性などを解説します。

久しぶりの帰省。両親が「投資開始発言」で驚愕

Aさんは久々に実家へ帰省したとき、80歳近い両親から「最近、新NISA口座を開設して投資を始めた」という話を聞きました。
 
Aさんの両親は、元公務員でリタイアした父と、趣味を兼ねたパートで働いている母です。子どもは三人いますが、それぞれがすでに独立しているため、長年二人暮らしが続いています。
 
Aさんの父は元公務員ということもあり、堅実な生活を送っていました。「貯金しろ」が口癖で、お金に関しては投資や資産運用に興味を持たず、典型的な保守的な思考をしていました。
 
保守的な父から投資を始めたという話を受け、Aさんは驚きます。詳しく話を聞いてみると、銀行員から営業を受け、毎月定期預金の一部を新NISAでの運用に充てることにしたそうです。
 
海外株式へ投資するアクティブファンドと国内株式に投資するアクティブファンドにそれぞれ1万円ずつ投資しており、投資額は毎月2万円。両親ともに投資に関する知識と経験はなく、「信頼している銀行員からの提案だから」という理由で投資を始めたとのことです。
 
詳しく聞いても、新NISAの仕組みをきちんと理解しているとは思えず、投資を始めた理由も曖昧と言わざるを得ない状況です。父から話を聞いたAさんは、「年齢的に両親は30年後には間違いなく亡くなっているはず……今から新NISAを始めるのには意味があるのだろうか?」と疑問や不安を感じました。
 

後期高齢者が新NISAを始めるリスクとメリット

Aさんの両親が新NISAを始めるリスクとメリットをまとめると、以下のようになります。

【リスク】

●銀行員が勧めている商品がAさんの両親にベストな金融商品とはかぎらない
●Aさんの両親のためではなく、銀行員が自社の利益のために営業している可能性がある
●十分な運用期間を確保できず、損失を被った状態で亡くなる可能性がある
●投資に関する知識と経験がないので、相場の急変動が起こったときなどにパニックになってしまう

【メリット】

●預貯金よりも大きなリターンを期待できる
●インフレに対抗できる
●一括投資ではなく積立投資を行っているため、リスクを軽減できている
●投資を始めると政治や経済のニュースが気になるため、認知能力を維持できる可能性がある
●Aさんを含めて二世代で運用する場合は、十分な運用期間を確保できる

Aさんの両親のように、後期高齢者が新NISAを始めるかどうかを判断する際には、上記のリスクとメリットを踏まえる必要があります。そのうえで、必要性の有無と投資を行う目的があるのかを明確にしましょう。
 
まずは、必要性の有無から確認します。Aさんの両親が受け取っている年金は月額約25万円で、日常生活費はすべてカバーできているそうです。そのほかに現預金が1500万円ほどあり、突発的な入院や手術、介護が発生しても問題なく対応できるでしょう。
 
なお、生命保険文化センターの調査によると、介護に要する費用の目安は以下のとおりです。

●住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用:平均74万円
●月々の費用:平均8万3000円
●介護を行った期間:平均61.1ヶ月(5年1ヶ月)

あくまでも平均値ベースにはなりますが、介護費用としては500万〜600万円程度の備えがあれば、おおむね対応できそうです。Aさんの両親が要介護状態になっても、現在の備えで対応できるでしょう。貯蓄と年金収入で日々の生活や一時的な支出をカバーできている以上、Aさんの両親が新NISAを始める必要性はほとんどありません。
 
続いて、投資を行う目的についてです。今回、Aさんの両親は銀行員の勧めによって投資を始めており、目的が曖昧と言わざるを得ません。
 
特に、対面営業の金融機関では、顧客の利益ではなく自分の営業成績や自社の利益を優先しているケースが散見されます。そのため、毎月購入しているアクティブファンドが、本当にAさんの両親にとってベストな金融商品であるとはかぎりません。
 
実際に、投資信託のなかでもアクティブファンドは、インデックスファンドよりも総じて手数料が高い傾向にあります。「信頼している銀行員からの提案だから大丈夫だろう」という考えで投資を始めるのは、リスクが大きいでしょう。
 

Aさんが両親の資産を守るためにやるべきこと

おそらく、投資を始めるということはAさんの両親にも、潜在的に「お金を増やしたい」というニーズがあるはずです。Aさんは両親の資産を守るためにも、「どのような金融商品を買ったのか」「買った目的は何なのか」を聞く必要があります。
 
もし「お金を増やしたい」ということであれば、低コストのインデックスファンドに投資したほうが合理的です。確かに、Aさんの両親が購入しているアクティブファンドが好成績を残す可能性はありますが、購入前の段階では分かりません。
 
実際に、アクティブファンドの大半はインデックスファンドよりも運用成績が劣っています。「お金を増やしたい」というニーズを満たすなら、インデックスファンドを選ぶほうが理にかなっています。
 
なお、「銀行員が普段からお世話になっている人だから」は、金融商品を購入する理由にはなりません。向こうから提案してくれる商品は「銀行側にとって実入りが大きい商品である」と考えるべきでしょう。
 
Aさんの両親に「投資をやりたい」という意向がある場合は、ネット証券を使って低コストのインデックスファンドを購入する方法を勧めましょう。そのほうが、投資に関わるコストを抑えられ、合理的にお金を増やせる可能性が高いためです。
 
Aさんの両親が高齢でインターネットを使いこなせない場合は、Aさんがサポートしてあげましょう。両親の資産を守るためにも、Aさん自身も投資に関する勉強を行い、分かりやすく教えてあげることが大切です。
 

まとめ

後期高齢者でも、新NISAを活用して投資を行う意義はあります。インフレによる資産の目減りを防ぎつつ、二世代で運用すれば十分な投資期間を確保して安定した収益を得られることが見込めるでしょう。
 
しかし、投資を行う理由が「銀行に勧められたから」という場合は注意が必要です。銀行側がもうけるために、Aさんの両親に金融商品を買わせている可能性が考えられます。両親の大切な資産を守るためにも、Aさん自身も投資に関する知識を習得し、必要に応じてサポートしてあげましょう。
 

出典

金融庁 新しいNISA
公益財団法人生命保険文化センター 2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー