長年、賃貸物件で生活してきたものの、年金生活で収入が大幅に下がることを懸念して、住宅を購入すべきか悩んでいる人もいるかもしれません。老後は現役時代よりも収入が大きく低下する傾向にあるため、家賃が老後生活の負担となる可能性があります。   本記事では、夫婦2人で老後を賃貸で生活する場合と、住宅を購入して生活する場合にどちらが経済的に有利となるか、モデルケースを交えて解説します。

老後に賃貸生活は大きな負担になる可能性がある

ここでは、老後を賃貸住宅で生活する際に、どの程度の家計負担となってしまうかをみていきます。まずは、老後の年金受給額の平均と家賃が13万円と設定した場合の毎月の支出額を確認していきましょう。
 

年金受給額の平均と老後の支出額

まずは、老後生活における収入からです。総務省統計局が公表した2023年のデータによると、65歳以上の夫婦のみの実収入は約24万4500円で、可処分所得(手取り収入)は約21万3000円です。これはあくまで平均であり、基礎年金のみなどの場合は所得が少なくなる可能性があります。
 

家賃13万円で老後生活を送る場合の資産額の動向

続いて家賃13万円の賃貸で生活していく際の家計支出をみていきます。前述と同じく、総務省統計局の公表データを参考にして毎月の支出額を算出しました。内訳は図表1のとおりです。
 
図表1

65歳以上の夫婦のみ世帯
食費 7万2930円
家賃 13万円
水道光熱費 2万2422円
家具・家事用品 1万477円
被服費 5159円
保健医療 1万6879円
交通・通信 3万729円
教養・娯楽費 2万4695円
その他 5万839円
合計 36万4130円

総務省統計局 家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要より筆者作成
 
このケースですと、毎月約15万円の不足が生じることになり、このままのペースでいくと9年後には貯蓄1500万円は枯渇してしまう計算です。
 

1000万円の中古住宅を購入した場合の生活は?

次に1000万円の中古住宅を購入した場合の老後生活についてみていきましょう。こちらも総務省統計局の公表データを参考にし、毎月の支出額を算出します。なお、ここでは住宅購入時に生じる費用は考慮しないものとし、住居費として固定資産税や修繕費などが年12万円=月1万円かかるものと設定します。
 
内訳は図表2のとおりです。
 
図表2

65歳以上の夫婦のみ世帯
食費 7万2930円
住居費 1万円(固定資産税、修繕費等)
水道光熱費 2万2422円
家具・家事用品 1万477円
被服費 5159円
保健医療 1万6879円
交通・通信 3万729円
教養・娯楽費 2万4695円
その他 5万839円
合計 24万4130円

総務省統計局 家計調査報告(家計収支編) 2023年(令和5年)平均結果の概要より筆者作成
 
このケースですと毎月約3万円の不足が生じます。住宅購入時に1000万円の出費が発生するため、貯蓄残高は500万円まで減少するものの、毎月の出費が大幅に改善され、資金の枯渇を14年まで延ばすことが可能です。
 
このように、物件や家賃にもよりますが、賃貸住宅から持ち家に変えたほうが、経済的な部分で有利になる可能性があります。また、購入後は家賃の支払いがなくなるため、長期的にみた場合に賃貸住宅と比較して住居費用の総額も抑えられるでしょう。
 
ただし、生活する上での立地や安全性といった個々のニーズに合わせた選択が求められるため、購入を検討する際はこれらの要素を考慮し、慎重に判断する必要があります。
 

住宅費以外の生活スタイルも見直す必要がある

現役時代と比較して、老後は収入が大幅に減少する傾向にあるため、賃貸住宅で生活していると、経済的負担が重くのしかかる可能性もあります。もし、中古住宅でお手頃な物件が見つかれば、購入して老後生活を送るのも選択肢の1つでしょう。
 
ただし、住宅を購入し、毎月の生活費を大幅に抑えられたとしても、老後は収入が大きく減少するため、それ以外の生活費の見直しを実施することが大切です。もし、自身で見直しが難しい場合はFP(ファイナンシャルプランナー)などの専門家に相談するとよいでしょう。
 

出典

総務省統計局 家計調査報告家計収支編2023年(令和5年)平均結果の概要
 
執筆者:辻本剛士
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、宅地建物取引士、証券外務員2種