南相馬市は「宇宙関連産業推進室」を新設し、宇宙分野の産業振興に力を入れている。福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の重点分野の一つでもある「航空宇宙」の国内拠点を目指し、あらゆる可能性に挑んでほしい。

 東日本大震災が発生して以降、市内ではインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)をはじめ、ロケットや人工衛星開発に関わる新興企業の進出が相次いでいる。福島ロボットテストフィールドが技術検証の場として効果的に活用できる環境が追い風になっている。機械部品の多種多様な注文に対応可能な加工技術を有する中小企業が数多く操業しているのも魅力としてあるという。こうした産業基盤の利点に加え、市は進出企業と資金を提供する企業を仲立ちするなどソフト面の支援も進めている。

 宇宙関連産業推進室は、さらなる宇宙産業の集積に向けて今年度、設けられた。手始めに地上試験設備や発射台などの整備、施設運営の可能性を探る。ロケットは、地球の自転を生かして東向きに発射するのが一般的とされる。

 東側が太平洋に面した浜通りは立地的にも適している。国内で民間のロケットを打ち上げられる施設は、北海道大樹町と和歌山県串本町にある。両町に比べて南相馬市は首都圏に格段に近く、事業拠点を首都圏に置く宇宙開発産業にとっては優位な立地条件といえる。

 ただ、ロケット発射が可能な拠点の整備は長期を要する。大樹町では、実験施設の構想発表から初の民間企業単独のロケット打ち上げ実験まで約30年を費やしている。成果が見えるのに相当の年月が必要な現状を踏まえれば、試行錯誤は重ねながらも中途で断念せず、地道な挑戦の積み上げが肝要だ。国や県との連携も重要になる。

 市民の理解や協力も欠かせない。子どもに向けては、宇宙産業について学ぶ機会を設けてはどうか。学校での出前授業などを通じた人材育成への協力を市との協定に盛り込んだ進出企業もある。先端技術を身近に感じてこそ、地元の産業に関心を持ち、将来を担う人材が育つ。息の長い人づくりの循環が、地域に根差した「宇宙のマチ」実現の原動力になる。(平田団)