新型コロナウイルスが感染症法上の位置づけで5類に移行して1年。日常が戻りつつある中、コロナ禍で必要とされた対策の多くがその役割を終えている。税金で大量に購入された備品は今、どうなっているのか。その行方を追った。

無料接種終了で役目を終えた超低温冷凍庫

宮城県名取市の保健センターで行われていたのは、新型コロナワクチンの廃棄作業だ。
3月末、ワクチン接種を全額公費でまかなう特例臨時接種が終了。これを受け、名取市では使用しなかったおよそ1万回分のワクチンを廃棄することになった。最後は医療廃棄物の箱に入れ、専用の業者に引き渡す。

これで役割を終えたのがワクチン保管用の超低温冷凍庫。国はおよそ90億円をかけておよそ2万台を確保し、接種業務を担う全国の自治体などに無償で譲渡。県内にも243台が配置された。

ワクチン保管用冷凍庫 研究者「いつか欲しいと」

この超低温冷凍庫をめぐり、激しい争奪戦が繰り広げられている。国は2023年12月、公費によるワクチン接種終了後の冷凍庫の取扱いについて「可能な限り有効活用をしてほしい」と、売却を含めた判断を各自治体に委ねていた。名取市は保有する3台の冷凍庫について譲渡の方向で希望者を募ったところ、1カ月ほどで県内外9つの医療機関や大学などから希望が寄せられた。最終的には県内の教育機関に無償譲渡することを決めた。

「科学実験をやっているものからすると、魅力的。ワクチンで超低温の冷凍庫使っていると聞いて、いつか欲しいなとみんなが思っていた」と、冷凍庫を譲渡された仙台高専の熊谷進准教授は話す。仙台高専は柴田町からも無償で冷凍庫を譲り受け、学生実験に活用している。
多くの人が欲しがるこの冷凍庫。気になるお値段を名取市健康福祉部・保健センターの加藤勤所長補佐に聞くと「ネットで見たところ、60万円から70万円くらい…」とのこと。新型コロナワクチンの保管用冷凍庫は今、多くの研究者にとっての垂ぜんの的となっていた。

コロナ禍で得た技術 高価な解析装置は今も活躍

場所も役割も変えて活躍するものがある一方で、コロナ禍から引き続き、同じ場所で活躍しているものもある。感染症の調査研究を行う仙台市衛生研究所で行われていたのは、医療機関から提供されたコロナ陽性患者の検体のゲノム解析だ。
変異を続けながら猛威をふるってきた新型コロナウイルス。この施設では感染状況を把握するため、ウイルスの変異を調べるスクリーニング検査を2021年から始め、現在も月100件程度のペースで行っている。その検査に用いられるのが「次世代シークエンサー」と呼ばれる、ウイルスが持つ塩基配列を可視化し、変異について調べる装置。解析ソフトも合わせるとその価格は高級車並みの1台2000万円。それも全額、国の公費で賄われている。

コロナ禍前は、予算の関係で高価なゲノム解析装置は持っていなかったという仙台市衛生研究所。コロナをきっかけに装置を手に入れたことで、検体を調べる技術だけでなく、そこから得たデータを自分たちで解析するスキルも身に付いたという。
実際に仙台市内で採取された複数の検体を分類した結果を見せてもらうと、いくつかのクラスターが確認でき、その大きさによって、どのような変異株が流行しているかがわかる。

「次の何かしらのウイルスによるパンデミックが起きた際も、同様に変異株を探知するという仕事は必ず残ると思うので、その時に必ず役に立つ技術だと思う」(仙台市衛生研究所・微生物課松原弘明課長)

導入された装置と得られた知見は、次への備えにつながっている。

未知のウイルスによるパンデミックに備える

すでに活用されているものがある一方、備蓄されたままのものもある。

仙台市内にある宮城県が保有する施設を覗くと、そこには何段も積まれた段ボールがあった。中身はすべて全てパルスオキシメーター、その数は5000個にも上る。
血液中の酸素飽和度を調べることができ、重症化の兆候を探る機器として、コロナ禍の当時、県が自宅療養者に貸し出していた。宮城県によると価格は平均で1つ3000円ほど。こちらも全額、国庫から賄われている。

ピーク時の調達数は約1万5000個。そのうち、実際に貸し出されたのは約7900個で、700個ほどはいまだ返却されていない。これも税金で購入された大切な備品であり、県は未返却のパルスオキシメーターについて「心当たりがある方は一度県までご連絡を」と呼び掛けている。需要がなくなった1万5000個のうち、1万個を県内の医療機関に無償で提供し、5000個は次のパンデミックに備え、保管しているという。

コロナ禍で必要とされた対策の数々。5類移行から1年、効果の検証と今後につながる活用が求められている。
(仙台放送)