厚労省によると、5月のマイナ保険証の利用率は7.73パーセントで、4月の6.56パーセントに続き、過去最高を更新した。

それもそのはず、5月〜7月は、「マイナ保険証の利用促進集中取組月間」なのだ。「利用人数を増やした医療現場には最大20万円の一時金を給付する」「窓口で患者への声掛けやチラシ配布を徹底する」といった、一大キャンペーンを展開中だ。しかも6月からは一時金の上限を最大で40万円まで引き上げる力の入れようだ。

しかし、このキャンペーンによって、医療機関と患者との間にトラブルが起こっているという。保険医療を行う医師と歯科医師10万7千人で構成する「全国保険医団体連合会」の事務局次長・本並省吾さんに、現状を詳しく聞いた。

■「ゴリ押し」ともいえるキャンペーンでトラブルが続出

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:厚労省による、マイナ保険証のゴリ押しキャンペーンによって、病院や薬局と、患者さんとの間で、様々なトラブルが起こっています。特に問題なのが薬局です。先日、ある薬局チェーンの対応が大きな問題となりました。

これは、薬局チェーンが、「医療機関が発行した処方箋」と「従来の保険証」を出した患者さんに対し、「マイナ保険証のみの受付になります(マイナ保険証がないと受付できないので薬を出せません)」という、誤った対応をしてしまったものです。これは明らかな法令違反です。

医療機関発行の処方箋は、保険を利用して薬を購入しますから、「保険の資格確認」が必要です。しかし、それには従来の保険証もマイナ保険証も必要ありません。なぜなら、処方箋自体に必要な保険情報が記載されていて、それで十分、資格確認ができるのです。これが一つ目の誤り。

また、マイナ保険証というのはあくまで任意であって、強制できるものではありません。つまり、本来、見せる必要のない保険証の提示を求め、さらに取得は任意であるマイナ保険証の提示を強制してしまったのです。これが二つ目の誤りです。

この患者さんは、マイナンバーカードは持っていたものの、保険証としての登録をしていませんでした。ですが、ぜんそくの発作が起きて薬がすぐに必要となったため、その場でマイナ保険証の紐づけを行い、なんとか薬を手に入れられました。帰宅後、薬局の対応がおかしいことに気付き、SNSに投稿。反響が広がり、大きな問題に発展しました。

この問題は、6月21日に開かれた社会保障審議会医療保険部会(厚労省の諮問機関)で取り上げられました。厚労省は問題があったことを認め、医療機関に「無理強いはしないで下さい」といった内容の呼びかけをすることになりました。

■病院では従来の保険証 薬局ではマイナ保険証

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:5月のマイナ保険証の利用件数は1424.7万件で、4月から約214.4万件増加しました。この増加分の、実に約67パーセントが薬局での利用です。(142.7万件が薬局、次いで医療診療所が46.6万件、病院16.6万件、歯科診療所が8.5万件) 薬局で保険利用の薬をもらうには処方箋が必要ですから、必ず病院や診療所を受診してから薬局に行きます。病院の受診だけの人はいますが、薬局だけの人はいません。

しかし、5月の利用件数を見ると、薬局の増加数142.7万件は、病院や診療所全体の増加数71.7万件の約2倍です。これは、言い換えれば、病院では従来の保険証を利用し、薬局でのみマイナ保険証を利用した人が、70万人以上いたということです。 歯科診療所や院内処方の病院などに行き、薬局を訪れないケースも多いので、実際には、もっと多くの人が、薬局でのみマイナ保険証を利用したと思われます。なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか。

■厚労省が作った「マイナ保険証 促進のための台本」

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:厚労省はことし3月、キャンペーンに先駆けて医療機関向けに「マイナ保険証促進トークスクリプト」を作成、公開しました。患者さんに対して、どのように声をかければ良いかを、フローチャート形式で示した、言うならば「台本」です。「薬局向け」と「病院向け」の2種類があり、両方とも厚労省のHPで見ることが出来ます。

その中身はというと…

最初のお声がけ「マイナンバーカードはお持ちでしょうか?」で、「はい」か「いいえ」の回答によって、次のセリフに進みます。

「いいえ」に進み、さらに「まだマイナ保険証を作成していない場合」は、 『2024年12月2日に現行の健康保険証の発行が終了します。まずはぜひ、お早目にマイナンバーカードの作成をお願いいたします』 というセリフに続くのです。

繰り返しになりますが、マイナンバーカードの作成は任意です。ですが、この台本では「作成をお願い」しています。 この厚労省の「台本」に沿って、薬局で患者さんたちに声かけが行われ、その声かけによって「12月以降はマイナ保険証がないと薬がもらえない」と誤認する人が増えています。結果として患者さんに誤った案内を行ってしまっているのです。

全国保険医団体連合会 本並省吾さん:残念ながら薬局のスタッフの中には、マイナ保険証のことを正確に理解していない人も多いようです。彼らは厚労省が作成した台本だからと素直に従って、機械的に患者さんに説明をする。中には「12月で保険証は使えなくなりますよ。保険診療を受けられなくなりますよ」といった案内をするケースも少なくありません。

われわれのところにも、一般の方、特にご高齢の方から「マイナカードは、トラブルや偽造事件もあるから作りたくないのだけど、保険診療が受けられなくなるのは困る。どうすれば良いのでしょう」といった相談が多く寄せられています。 マイナ保険証を持っていない人には、保険証の代わりとなる「資格確認証」が、自動的に送られてきます。しかし、厚労省の台本や、配布しているチラシ・ポスターには、その説明が一切ありません。

マイナカードはリスクもあるものですから、取得の有無は自分で選択するもののはずです。なのに、高齢者にとって身近な薬局で、繰り返し勧められて、半ば強制的に取得させられているのが現状なのです。(全国保険医団体連合会 本並省吾さん)

薬局で広がった誤解や混乱。同様に病院や診療所でも様々なトラブルが起こっているという。本並省吾さんに後編でさらに詳しく聞く。

(関西テレビ 2024年6月29日)