自転車は乗れるようになるまでが大変で、いざコツを覚えてしまえばスイスイ乗れるようになる人の方が多いでしょう。しかし中にはいつまでも慣れない人もいるようです。今回は自転車がきっかけでとんでもない誤解をされてしまった私の知人、Rさんから聞いたお話です、

慣れない自転車通学

Rさんは当時高校に入学したばかり。

中学までは徒歩で通学していましたが、合格した高校が少し遠いところにあったため、片道約30分の自転車通学をすることになりました。

「いててて……今日もやっちゃった」
実はRさんは子どもの頃から自転車が苦手。一応乗れることは乗れるのですが、走り出すとフラフラと不安定になってしまいます。

そのため、ちょっとした段差があるだけですぐに転倒してしまい、身体のあちこちに擦り傷が絶えない高校生活がスタートしてしまいました。

「あ、ライトが壊れてる」
あまりに転倒を繰り返したせいで、新品だった自転車はすぐに傷だらけに。Rさんは自転車を停めようとしたときに、自転車のライトが転倒の衝撃で割れているのに気づきました。

自転車を修理に出したら……

Rさんは学校の帰りに近くの自転車屋さんに立ち寄りました。入学以来何度も自転車を修理してもらっているため、すでに常連になっていたのです。
「すみませーん、修理をお願いします」
「はいはい、ってまたあなたなの? 大丈夫?」
自転車屋さんの奥から、奥さんが出てきて目を丸くしました。なぜならRさんは自転車屋さんに行く途中でも転倒して、膝から血を流していたからです。

「修理してる間に手当てするから、ちょっと来なさい!」
Rさんは親切な奥さんに店の奥に連れて行かれ、擦りむいた膝の手当てをしてもらうことに。
「一体どうしてこんな…… 自転車はいつも傷だらけだし」
「ああ、さっき転んじゃって」
「そう、みんなそう言うのよね」
奥さんは悲し気な表情を浮かべましたが、その時のRさんには何もわかりませんでした。

先生から呼び出し

翌日Rさんがいつものように登校すると、担任の先生と学年主任の先生から生徒指導室に呼び出されてしまいました。
「え、なんですか!?」
「いいから座って、正直に話してくれ」
先生たちは硬い表情でRさんに言いました。
「お前、クラスでいじめに遭ってるんじゃないか」
「い、いじめ!?」
クラスメイトとは仲が良く、楽しい高校生活を送っていたRさんはビックリ。
「全っ然ないですよ! 急にどうしたんですか?」
Rさんの質問に、学年主任の先生が答えました。
「昨日、近所の自転車屋さんから電話があったんだ。入学以来何度も自転車を壊されて、ケガまでしている生徒がいるって」
Rさんは慌てて、自分が自転車に慣れておらず転倒を繰り返していることや、自転車の傷も昨日の怪我も全て自分のせいであることを説明しました。
「なんだそれ! 危ないなあ、気を付けてくれよ!」
ふたりの先生は大爆笑。その後Rさんは体育の先生から、放課後にみっちり自転車の乗り方指導を受ける羽目になりました。

自転車屋さんが本気で心配してくれたことを嬉しく思ったRさんは、帰りに自転車屋さんに立ち寄り、いじめを受けてはいないことや、ちゃんと自転車の指導を受けたことを報告したそうです。

自転車は一歩間違えると大事故に発展する危険性があります。しっかりと指導を受けられて良かったですね。

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:齋藤緑子