文●池田直渡 写真●テスラ

 5月1日。外紙が一斉に伝えたところによれば、テスラは急速充電器「スーパーチャージャー」チームのほぼ全員を解雇した。解雇の理由は発表されていないが、テスラでは4月中旬に世界の従業員の10%の人員削減を発表しており、過去に車両価格の値下げや生産調整なども発表されてきたことから見て、同社の利益体質に何らかの問題が発生していると思われる。

テスラは2024年4月23日に、2024年第1四半期の決算を発表。販売台数減少の影響を受け、総売上高は前期比で約15%減少。営業利益は前期比で約43%の減少。キャッシュフローもマイナスとなった

 さて、問題はスーパーチャージャーの今後の話である。昨年はテスラが立ち上げた充電方式、NACS方式の採用に北米でクルマを販売するメーカーが次々と名乗りを上げ、薔薇色の未来を予見させた。フォード、GM、リビアン、ボルボ、ステランティス。ポルシェ、アウディを含むフォルクスワーゲングループ、BMW、トヨタ、日産、ホンダ、スバル、ヒョンデ、キアと北米でクルマを売るほぼ全てのメーカーがテスラ方式の軍門に降った。

テスラは北米にスーパーチャージャーネットワークを構築中

 ちなみに、米バイデン政権は1月11日に全米のEV充電ネットワーク構築に向けた6億2300万ドルの助成金プログラムを発表した。どの方式にいくらという詳細は発表されていないので、不明だが、常識的に考えてアメリカでもっともポピュラーな方式となったNACSが、この助成金の対象外であるとは考えにくい。今後スーパーチャージャーが稼働停止するようなことになると、この助成金も槍玉に上がる可能性がある。

 さて、このニュースは、全体の絵柄を見るには色々ピースが足りない。報道を見る限りスーパーチャージャーの開発チームを解雇したのはテスラの側であって、チーム側が出ていったわけではない。

 スーパーチャージャーによる充電はビジネスとして成立していた可能性は低い。2014年〜2017年までにモデルSとモデルXを購入したオーナーには、無期限の充電無料サービスが付帯しており、ユーザーはテスラを買えば、以後ずっとランニングコストゼロでの運用が可能であった。

 その後、このプログラムはなくなり。プログラムの利用権利者に対して5000ドルの割引を提示して車両の乗り換えを促進した。しかし無期限の充電無料とのギャップは大きいため、後に6年間無制限無料充電サービスキャンペーンを期間限定で実施し、無期限無料サービスをなんとか終了させることを狙った。テスラとしてもBEVの普及のために大盤振る舞いを頑張って来たがそれもそろそろ限界に達しつつあるということだろう。逆に言えば今後は充電サービスを黒字事業化しなければならないのではないかと筆者は想像している。

 スーパーチャージャーに限らず、急速充電は世界中どこでもビジネスプランが成立していない。利用者が納得する価格で急速充電サービスを事業化した前例はこれまでない。そのほとんどが国や自治体、あるいは自動車メーカーが提供する採算度外視のサービスである。もちろんインフラの普及期にあっては、そうした新インフラの助成システムで支えることを否定する気はないが、問題は初期投資のみならず、平常営業のランニングコストですら、採算に合わないことである。

 筆者は長年、BEVの普及のボトルネックを3つ挙げて来た。第1に車両価格の高さ。第2に原材料不足。そして3つ目がまさに充電事業の不採算問題だったわけだが、テスラのスーパーチャージャーに関する今回のニュースは、「まあそうなるよな」と言いたくなる話である。

 さて、スーパーチャージャーのサービスが今後継続できるのかどうか、それはやがてはっきりすると思うが、少なくとも充電器の普及拡大、そしてアップデートには何らかの問題が発生するだろう。

 ニュースにあるように「チームのほぼ全員」を解雇してしまっていることを考えると、全てはマイナスからのスタートになる。事業を再開するには、新たにスタッフを雇用または他部署から異動させ、教育し、現状を理解させた上で、ようやくスタート地点である。そこからようやく新たな開発なり営業なりがはじまる。しかし果たして従来より低い総額で能力あるスタッフを十分な人数確保することができるのだろうか。それができない場合、むしろ解雇によって従来より厳しい環境になる可能性すらある。

 テスラの魅力は、走りながら考えるところにあるのだが、それにも限度がある。もはやスタートアップの段階を過ぎたテスラは、少なくとも成功への青写真も無しに闇雲に走っていけば破綻する。大きくなった体はその慣性が大きい。止まろうと思ってすぐ止まれるわけではないし、周囲への影響も大きい。そろそろ「慎重は悪」という考え方にある程度の縛りが必要になってきていると筆者は思う。

著者:池田直渡(いけだ なおと)