停止続出、前代未聞の大波乱! 本命消滅、伏兵台頭で急展開!! どうなる? どうする!? X氏!!!

【プロローグ】 現在のソリオを購入して早10年。走行距離は12万kmを突破したが、普段使いでは不満なし。スライドドアは便利だし、燃費も良好だ。
 ただし、雪山に出向くとき、不満が噴出する。高速道路でのパワー不足もさることながら、峠での足回りの弱さには、もう耐えられん……ゲレンデ目前でスリップしまくり、冷や汗をかくこともたびたび。途中でスタックしているクルマに遭遇すると、明日は我が身か……“アラフィフ”目前で、今後は運転能力も低下してきそうだし……。
 そこで、ストレスフリーで移動ができるクルマの購入を検討することにした。
 狙いはコンパクトSUV。スキーに出かけるときは前日に移動するので「後部座席で横になれるシートアレンジ」が不可欠。もちろん積載のためのルーフレールも欲しい。そして「走行性(走りっぷり)が自分の感覚と合っている」こと……以上、3点をクルマ選びの重要なポイントとして交渉をスタートする。

【交渉1日目 (日)】 まずはダイハツへ。対象は本命のロッキー。ハイブリッドは受注を停止しているとのことで、ガソリン車の見積もりを依頼する。担当は若手女性セールスさん。
 提示してきた値引き条件はたったの5万円。試乗車も展示車もないため、社員の私用車を見せてもらうが、遠慮して運転席には座らず、後部座席の使い勝手をチェックして終了。

【交渉2日目(土)】 トヨタA店へ。事前に予約しておいたライズを試乗。ここでも担当はセールスレディさん。“おじさん”X氏としては若い女性との値引き交渉が苦手なので「ついてないなあ」と思う(笑)。
 試乗すると「自分の感覚には合わない走りっぷり」で、ちょっとがっかり。ルーフレールの設定がないことも判明。しかも値引きは4万5000円。
 ヤリスクロスは一部改良前とのことで、突っ込んだ商談ができない。また、カローラクロスは受注残がたっぷりあるため販売を停止中とのこと。

【交渉3日目(土)】 下取り車のソリオを購入したスズキへ。担当のセールスさんと久々に対面。いまや副店長にのしあがっていた。大幅値引きの期待感がアップする。
「ソリオでは雪道が不安なのでクロスビーへの乗り換えを考えているんですよ」
「Xさんは雪国へ頻繁に出かけるんですよね。それならクロスビーがぴったりだと思います。近々一部改良して価格が10万円くらい上がる予定です」
 とりあえず現行モデルを試乗。正直、走りはライズより好感が持てた。アクセルレスポンスが自分好みだ。残念なのはルーフレールのオプション設定がないこと。イグニスやハスラー、スペーシアギアには設定されているのにクロスビーにはないって、どういうことなのだ?
 数日後、ショッキングなニュースが入ってきた。ダイハツによる「認証申請における不正行為」が発覚……あぁ、ロッキー/ライズは出荷停止処分が下されて、当分は新規の販売ができないとのこと。
 本命があえなく消滅してしまったため、候補車の見直しを迫られる。ヤリスクロスとクロスビーの“一部改良”組をメインに考えることにしたが、ここでクロストレックが浮上。「ウィンタースポーツにはスバル車がよく似合う」ということで、以前からひそかに憧れていた。問題は他の候補車より値段が高いこと。気合を入れて値引き交渉するしかない。

【交渉4日目(土)】 エルニーニョ現象で暖冬の可能性が高いが、1月に入れば雪山シーズンとなるため、ディーラーに行く時間が少なくなる。年末に勝負をかけることにした。
 急遽、RVRも候補に加える。三菱店を訪問。
「RVRなんですが、本日朝一番のメールで『4月に生産終了』との連絡がありました」
 う〜ん……出鼻を挫かれた。
 それにしてもダイハツは出荷停止、トヨタは受注停止、そして三菱は生産終了……今回のクルマ選びはなんだか様子がおかしい。結局、RVRは取りやめることにした。
 いやぁ、いろいろあるなあ……と思いながら、スバルへ。
 担当は物腰がやわらかい中堅のセールスさん。ちょっと話をしただけで“スバリスト”というのが伝わってきた。これまでの状況を伝えると、
「ダイハツさんの不正問題はうちも影響を受けています。ステラとかプレオプラスっていうダイハツ製の軽自動車が販売できなくなって困っています」
「ロッキー/ライズが消えたのでクロストレックが有力候補に浮上してきました」
「わかりました。見積もりを出してみます」
 リミテッド4WDの総額は値引きなしで約425万円!
「う〜ん……高い! アイサイトの安全性は認めますが、それにしても割高な感じがします」
「雪山への長距離運転によく出かけるのであれば、アイサイトを使うことによって現地に着いてからのアクティビティを満喫することができますよ」
 そういえば、スバル車を所有する友人がアイサイトを褒めていたことを思い出す。それにしても420万円オーバーには驚く。かといって、グレードを落とす気にはなれない。
 夕方になってしまったため、値引き交渉は次回とする。他社との競合伝え、試乗の約束もして引き上げた。


不正発覚、ロッキー退場! 能登地震、ヤリクロ休場!!

【交渉5日目(土)】 クロスビーの一部改良の内容がわかったとの連絡が入ったので、スズキに乗り込む。
「クロスビーの納期は3〜4か月です。初売り後はもっと長くなるかもしれません」
 値引きなしの総額は約310万円。
「ソリオよりだいぶ高くなりますね」
「値引き、頑張ります!」
「とりあえずヤリスクロスと比較させてください」
 その足でトヨタB店へ。先日のトヨタA店とは経営資本の異なる販売店だ。
 応対してくれたセールスさんの名刺をみると係長の役職が付いている。とても元気で感じがいい。期待できそうだ。
 まずはヤリスクロスの展示車をチェック。クロスビーと比較すると運転席は窮屈に感じるし後部座席も狭い印象。コンパクトカーはスズキのほうが作り方は上手だなと感じる。一部改良後のヤリスクロスを対象に商談開始。値引きなしの総額は約370万円。
「私は本格的な雪山を走ったことがないのでどれくらいの悪路かわからないのですが、雪道の性能を重視するならRAV4もご紹介させてください」
「RAV4はサイズ感的に大きい感じがするんですよね」
「候補にあがっているクロストレックと比較すると横幅が65mmほど大きくなりますが、この程度ならそれほど気にならないと思います」
「では、RAV4の見積もりもお願いします」
 ハイブリッドの特別仕様車(アドベンチャーオフロードパッケージ2)は値引きなしの総額約480万円。
 う〜ん……よほど大幅な値引きを出してもらわないと買う気にはならない。ともあれRAV4の試乗予約を入れた。

【交渉6日目(日)】 年が明けてしまった。暖冬でスキーのシーズンインが延びているため、クルマ選びに専念できることが不幸中の幸い?(笑)。
 とはいうものの、どのクルマも納期に数か月かかるため「3月の年度末決算の登録」にタイミングを合わせて大幅な値引きを狙おうとすると、それほど余裕があるわけでもない。
 まずは、RAV4を試乗するためトヨタB店へ。例の係長さんが出迎えてくれた。
「X様、すみません、ご希望のヤリスクロスの納期が未定となってしまいました。理由は先日発生した能登地震でサプライヤーに被害が出ているのと、出荷停止となっているライズの補填の関係です」
 えっ、マジか……。
「地震はわかるけど、ライズの補填ってなんですか?」
「ライズを契約して納車を待っていたお客様がヤリスクロスに切り替えているため、一気にバックオーダー(受注残)が増えてしまったんです」
 う〜ん……今回のクルマ選びは次から次へと予期せぬ障害が出てくる……。
「ただしRAV4への影響はございません。それにカローラクロスの受注も再開しました。RAV4の試乗車の横にわざとらしくカローラクロスも停めておきましたので、ご試乗いただけたらと思います」
 係長さん、抜かりないな。積極的な売り込みにこのまま押し切られそうだ。
「先日、RAV4が入るかと、立体駐車場のことを気にされていたので、ご自宅まで走って確認しましょう」
 試乗を兼ねて我が家へ。係長さんが駐車場の諸元表をチェックしてくれた。
「X様、これは駄目ですね。ぎりぎり入ることは入ると思いますが、管理者の許可がおりない可能性が高いと思います。でも、カローラクロスなら問題なく入ります。ぜひご試乗してみてください」
 こんどはカロクロに試乗。走りは自分好みではないが、ヤリクロが納期未定となっているので検討してみることにした。
「カローラクロスは生産ラインの状況によっては再び受注停止となるかもしれません。正直、来週はどうなるかわからない状況なんです。できたら早めに契約をお願いします」
 また、急だな……吟味する時間がないじゃん。
 提示してきたカロクロの総額は約382万円。
「X様にはいろいろとご迷惑をおかけしているので、頑張って360万円にします」
 値引きは22万円。
「もう少し検討したいのですが、来週には決めないと納期がわからなくなりますよね?」
「そうしていただいたほうがよいかと思います」
 というわけで、来週の商談予約をして引き上げる。

百万円引き…なんちゃって(笑) 初売り/決算、滑り込みセーフ

 続いてスバルへ。
「トヨタさんでは地震で納期に影響が出ているそうですが、スバルさんはどうですか?」
「当社では影響が出ているとは聞いておりません。クロストレックの納期は2〜3か月なので、いまなら3月末までに登録できそうです。では、試乗に出かけましょう」
 TAKE OFFルームに案内される。「ずいぶん見通しの悪い場所からのスタートだな」と思っていたら、マルチビューモニターの優位性を体験できる仕掛けになっていた。
 試乗中も「ここでは坂道の走りを確認してください」とか「Uターンして旋回能力を確かめてください」などとアピールしてくる。試乗コースがクルマの性能をしっかり体験できるレイアウトになっているわけだ。
 ははーん、やるなスバル……っていうか、走りそのものがいい! すっかりクロストレックを気に入ってしまったぞ。
 クロスビーとクロストレックって価格帯が違うので真っ向からぶつかるライバルじゃないけど、今回のクルマ選びではこの2モデルが急浮上してきた。
「クロストレックはいかがだったでしょうか?」
「いやー、よかったですね。正直、クロスビーとどっちにしようか悩んでます」
「一番のお悩みはどこでしょうか?」
「クロスビーとでは100万円ぐらい価格の差があるんですよ。クラスが違うので、そこは仕方がないと思っていますが、現時点ではクロスビーに傾いていますね」
「お値段に関しては特別にお安く提供できる方法があります。実は、うちでは年度末決算に向けてあらかじめ発注をかけています。そのなかにX様がご希望のタイプに合致するものがあれば、お安くできます」
 おおっ、これはチャンスではないか。作戦会議の際、松本さんから「新車の正規販売店では買い手が付く前にあらかじめ発注しておくことがあります。業界では予定在庫なんていいますが、これを狙うと大幅な値引きが期待できます」と聞いていたが、現実になるかも?
「なるほど。で、合致するものがありますか?」
「確認してまいります」
 しばらくしてノートPCを抱えて戻ってきた。
「お待たせしました。確認したところ、グレードとメーカーオプションは一致したのですが、ボディカラーが合うものがありませんでした」
「残念ですね。ボディカラーはブルーと決めています。これは譲れません」
「で、クロストレックの値引きなんですが、私の裁量ではこれ(手を開いて5を表す)が限界なんです。上乗せは上司の許可が必要となります。X様はおいくらなら、ご購入いただけますか? その金額で上司にぶつかってきます」
 事態は急展開を迎えた。試乗した結果、クロストレックに大きな魅力を感じているので一気に攻めることにした。
「じゃぁ、100万円下げてもらってクロスビーと同額になるなら即決します……なんていったらどうします?」(笑)
「過去にはそういうことをおっしゃるお客様もいらっしゃいましたけど……」
「ま、5万円引きっていっているのに、100万円はむちゃですよね。ズバリ、どのくらいならいけますか?」
「どうせ上司に怒られるのであれば、X様が『この金額なら購入する!』という本音の金額を聞いて、それを上司にぶつけたいと思っています」
 おいおい、まじめだな。
 う〜ん……ともかく、ここのいい値が肝だな。クロスビーも捨てがたいが、やっぱりルーフレールはマストアイテムだよな。トヨタは納車時期がコロコロ変わるけど、スバルは真摯に対応してくれてる。
 よしっ、勝負をかけよう!
「支払い総額が400万円を切ったら購入しましょう」
「1万円でも下回っていればよろしいでしょうか?」
「はい、OKです」
「では、戦ってまいります」
 あぁ、ついに指値をしてしまった……結果はいかに……。
「お待たせしました。こちらでいかがでしょうか?」
 といって、正式な注文書を提示してきた。車両本体とメーカーオプションから10万1円引き、付属品(37万1700円)から10万404円引きの合計20万405円引き。
 あれ? この値引き額では400万円を切れないぞ。
 注文書をよく見ると、他社ではほとんど値段が付かなかった10年/12万kmのソリオに6万800円の下取り額が計上されている。これを差し引くと、支払い総額は399万円。
「おぉぉ……あのソリオが6万円ですか!」
「はい、中古車販売部門に掛け合って、この値段を付けさせていただきました。X様が初売りの最後の契約ということで、特別な条件となっています」
 すでに営業時間を大きく過ぎており、店内にお客は自分のみ。最後は店長さんが登場。「よろしくお願いします!」と挨拶して、今回のクルマ選びを終了。なお「年度末決算月の3月末に登録ができる」とのこと。

購入データ
SUBARU クロストレック
リミテッド(4WD)
From 千葉県
トータル値引き 20.0万円
値引き採点 5
車両本体から10万円引き。付属品(37万1000円)からも約27%の10万円引きを計上。さらに10年/12万kmでほとんど査定価値のないソリオに6万800円という下取り額を付けている。

著者:内外出版/月刊自家用車