【独白 愉快な“病人”たち】

 山本量子さん(タレント/48歳)
  =子宮頸がん・卵巣がん

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「ウソやろ? めちゃ元気ですけど、私……」

 10年前、「子宮頚がん」と告げられたときは、そんな心境でした。本当にものすごく元気だったんです。

 健康には自信がありました。でも年齢を重ねたことだし、ここらへんでちゃんと1回検査しておこうと思って、2014年に胃カメラやら大腸検査やらいろいろ受けてみたんです。婦人科系の検査もその流れのひとつでした。まさか、がんが見つかるなんて思いもしていませんでした。

 かかりつけの婦人科から大きな病院を紹介され、改めて検査をするとステージ2b後期の子宮頚がんと言われました。治療は手術と、放射線と点滴による抗がん剤です。放射線は外照射と内照射(体の内側からの照射)の両方でした。

 10年前は医療について何の勉強もしていなかったので、「がん=死」という古いイメージがありました。今ほどSNSが発達していない時代だったせいか、検索しても私と同程度のステージで「元気になりました」といった前向きな書き込みがなかったのが不安を募らせました。

 でも、5カ月入院して仕事に復帰。その後も順調でした。ただ「5年間、何事もなく大丈夫だったらひとまず寛解」と言われていた中、なんと4年11カ月で腫瘍マーカーが再び上昇したのです。

 子宮頚がんの再発が疑われましたが、調べてみると今度は「卵巣がん」でした。転移ではなく、新たながんの発症でした。

「うわっ、来た」という感じでしたね。正直、2回目の方がショックは大きかったです。苦しい治療を乗り越えて、もうすぐ5年。もうこのまま元気にやっていけるのでは? と思っていただけに、「やっぱり終わらんかった。これはちょっと考えないかんな」と……。

 でも、このときは経過観察の中で見つかった初期の卵巣がんだったので内視鏡手術だけで済み、2週間ほどで仕事に復帰しました。その後も1〜2回腫瘍が見つかり、手術をしていたんですけど、そのたびに2週間ほどのお休みで仕事復帰してきました。

急に食事が取れなくなった

 ところが昨年7月、急に食事が取れなくなったのです。ここ2年ぐらいおとなしくしてくれてるなぁと思っていたところでの卵巣がんの再発でした。

 病院へ行くと、腫瘍がジャマをしてご飯が食べられなくなっていることが判明し、また手術を受けることになりました。私はまた2週間で仕事復帰できると思って、番組関係者にもそう言ってお休みをいただいたんです。でも、手術だけでは終わらない状態で、抗がん剤治療をしなければならなくなりました。そんなわけで2週間が9カ月になってしまいました。

 手術のおかげでご飯が食べられるようになり、体力をつけたところで抗がん剤治療を受けました。今回は抗がん剤のほかに新しい薬「キイトルーダ」という免疫チェックポイント阻害剤も投与しました。抗がん剤の副作用で頭髪はもちろん、まつ毛まで脱毛。食事が食べられなくなって点滴と栄養ドリンクのみで数カ月を過ごしました。

 でも、今年4月からは抗がん剤をやめて、月に1回のキイトルーダの点滴だけになりました。こちらの副作用は軽いので、主治医が「これなら仕事復帰できるんじゃない?」と言ってくださったのです。まだ治療は続行中ですけど、4月から少しずつ仕事に復帰させていただいています。

 復帰して感じたことは、番組のみなさんが優しかったこと。いつ復帰できるか分からないのに待っていてくれるなんて通常はないことです。言葉にすると薄っぺらいですけど、「感謝」です。めちゃくちゃありがたい。お返しできないほどの恩をもらってしまったと思っています。

 ラジオのリスナーの方々にも支えてもらいました。復帰した際に「泣きました」という書き込みをたくさんいただいたんです。実際に、これは偶然なんですけれど、叔父が膝の手術で入院していたとき同部屋の人がラジオを聞いて泣いているので、理由を聞いたら山本量子の復帰を喜んで泣いてくれていたそうなんです。それを叔父から聞いて、「そんな人、ほんまにいてくれてるんや」と感動しました。

 社会の一員に戻れたことは心の安定になっています。実家で母親が作ってくれる食事を食べて、寝ているだけではどんどん“病人”になってしまうんです。治療費もかさむし、「自分って何だろう。迷惑かけてるだけやんか」と悲観的になってしまう。でも、仕事をしていると外に出て気分が変わるし、“病人”とは違う世界があることが救いになるんです。

 がんばってもどうにもならないことがあるんだと学んだので、我ながら優しくなりました。病気前は何でも「がんばればなんとかなる」というタイプでしたし、人が悩んでいるとポンと解決策を返しちゃう。でも、寄り添って話を聞くことも必要なんですよね。

 ただまあ、基本的にあまり沈まない性格みたいで、仕事をしているとリスナーの皆さんに楽しんでほしいから、勝手に明るくなって勝手に楽しくなっちゃうんです。

(聞き手=松永詠美子)

▽山本量子(やまもと・りょうこ) 1976年、大阪府出身。20代から関西を中心にタレント活動を始め、2013年にMBSラジオに本格進出。「こんちわコンちゃんお昼ですょ!」「茶屋町ヤマヒロ会議」など複数の番組で人気を博す。現在は体調をみながらできる範囲で仕事復帰している。バンド「カンロサウルス」のボーカルも務めている。