子供に多い「鼻血」は、大人になるにつれ少なくなる。成人してから1カ月に何度も繰り返したり、止血をしてもなかなか止まらない場合には注意が必要だという。「日本橋大河原クリニック」院長の大河原大次氏に聞いた。

「左右の鼻の穴は鼻中隔と呼ばれる壁で隔てられていて、鼻の入り口から1センチほど奥にある『キーゼルバッハ部位』には、いくつもの動脈が集結しています。鼻の中は柔らかい粘膜で覆われているので、顔を洗ったり、はなをかんだりするだけで簡単に出血しやすい。大人の鼻血で受診される8〜9割以上は、このキーゼルバッハ部位からの出血です」

 アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)があると、鼻水の量が増えてたくさんはなをかむようになり、粘膜は傷つきやすくなる。また気温が低く空気が乾燥する冬の時季は、粘膜を覆う粘液が乾燥し、少しの刺激で鼻血を起こしやすい。

「鼻詰まりを解消させようと、よくティッシュを丸めて鼻の中をグリグリされている方もいますが、粘膜の表面を紙やすりで傷つけているのと同じです。アレルギーによって鼻血が引き起こされているのであれば、原因になっている病気の治療をする必要があります」

 鼻血は水道管の破裂と同じく、押さえなければ止まらない。いざ鼻血が出たら椅子やソファにリラックスした状態で腰かける。親指サイズに丸めたティッシュまたは綿を鼻の穴に詰め、出血した側の小鼻を親指で30分間押さえて圧迫する。その際、喉へ血液が流れ出て飲み込むと胃が刺激され吐き気を催しやすい。嘔吐を防ぐためにも飲み込まず吐き出すといい。

「血が固まる前にティッシュを取り出すと、再び出血したり傷口が広がる恐れがあります。鼻に入れたティッシュは12時間取り出さず、入れたままにしてください。止血してからもかさぶたが取れないよう鼻はなるべく触らず、当日は飲酒は避け、入浴はせずシャワーを浴びる程度にしてください」

■サラサラの鼻血は要注意

 とりわけ注意したいのが、これらの止血を行ってもなかなか止まらず、何度も繰り返す鼻血だ。まれではあるが、白血病や再生不良性貧血といった血液疾患があると、止血作用を持つ血小板の数が減少し鼻血が止まりにくくなる。また、それらの病気の初発症状として鼻血が現れるケースもあるという。

 ある30代の男性は、サラサラした水のような鼻血を1カ月に何度も繰り返し、出血が長時間止まらない日もあると耳鼻科を受診。血液検査の結果、白血球の数値に異常な増加が見られ、白血病の疑いが高いと血液内科を紹介された。

「大人の鼻血の場合、背後に重大な病気が隠れているケースも少なくありません。白血病だけでなく、鼻腔や副鼻腔に悪性腫瘍があると鼻血が出やすいので、診察では血液検査をはじめ、鼻咽腔ファイバースコープといった細い内視鏡で鼻の奥を観察し異常がないか確認しています」

 ほかにも脳梗塞や心臓病の治療で抗凝固薬を服用していると、血液がサラサラになりやすく鼻血が止まりにくい上に、容易に出血しやすくなる。また血管の形成異常が起こるオスラー病は、血管がもろくなりあらゆる部位から出血が起こりやすい。患者の80〜90%は鼻血を繰り返すとされ、放置すると肺の血管に血栓ができ脳梗塞を引き起こす危険が高い。

 たかが鼻血だと放置せず、1カ月に何度も鼻血を繰り返していたら耳鼻科でしっかりと検査を受けることだ。