岡田美術館杯第51期女流名人リーグ1回戦鈴木環那女流三段(36)対山根ことみ女流三段戦が17日、東京・将棋会館で指され、先手の鈴木が89手で勝利し、リーグ白星発進となった。

 鈴木の直近の成績には白星がずらりと10個並ぶ。終局後、そのことに触れると、鈴木は「よくご存じで」といつもの明るい笑顔を見せつつ、言葉を続けた。「この10連勝の前が自分にとっては地獄のような時間だったんですよ」

 昨年11月14日の福間香奈女流五冠との女流名人リーグ戦から3連敗。1勝を挟んで、年末年始の対局ではまた2連敗。明らかな不調だった。「ほんとうにきつくて。私は心が折れないことが自分の一番いいところだと思ってたんですけど。初めて心が折れそうになっていて…」

 女流棋士生活の中で今までも、同じような連敗はあった。だが、原因が分からないのは初めてだった。体調も良く、勉強も充実し、手も読めている、メンタルも整っていた。それゆえに、つらかった。「昨年度はその前からもなんだか勝ててなくて、一生懸命勉強をやっても、勝てないという現実に絶望していたんです…。たぶんもう勝てないんだろうな。もう将棋向いてないのかなって。ああ、ちょっともう(対局以外の)仕事を復活させようかなとか」

 当時は、対局が終わるとお世話になっている関係者に電話をかけては、涙を流していたという。「それで気づいたんです。ああ、自分結構ぎりぎりなんだなって」。”負の期間”は、「ちょっともう将棋は無理かもな。やってもやっても届かないかな。辞めようかな」と思い、その後「やっぱりもう少し頑張ろうかな」と自分を奮い立たせ、また対局に臨むというループを続けていた。

 ところが1月26日の女流王将戦予選の1勝から、一転して状況が変わった。そこから10連勝。いまだに負けはない。「やってることは何も変わってないんです。ただ、結果だけが変わった。なぜか星どりが真逆になった。不思議な感じなんです」。だから、連勝中の今も鈴木は「まだこわいんです。紙一重なんです」と素直な言葉を並べる。

 新顔が3人入った今期女流名人リーグでは唯一の昭和生まれのリーガー。「私、最年長なんですよね」と笑うが、鈴木の胸は今、生き生きと高鳴っている。3月に行われた詰将棋解答選手権にも久々に精力的に出場した。第1ラウンドでは1問も解けなかったが、第2ラウンドでは2問解けた。第2ラウンドの成績でみれば、出場した他の若手女流棋士たちに勝っていたという。「あれ?36歳いけるかもって(笑い)、まだ私いけるかもって思ったんです。明らかに昔の自分だったら解けないような問題が、今は解けるようになってる。30代になっても成長することってできるんだって。それは大きな自信になりました。絶対来年また出ようと思っています」

 前期リーグは4勝5敗。10人中6人が残留するリーグで順位は6位。ギリギリの残留だった。今期の目標は?「最近、勝ちたいと思っても勝てないことがあるとすごく痛感した。だから、本当は勝ち負けにこだわらずに一生懸命指すのが理想なんですが、やっぱり人間なので勝ちたいと欲が出てきて、それが自分を揺さぶる。それでも、今期はただただ一生懸命目の前の一局を考えて、読んで、集中してやってみようかなと思っています。その結果どういうことになるのか自分でもちょっと見てみたいなって」

 そして、鈴木はまた、おちゃめな笑顔を見せた。「このメンタルで続けていたら、(女流名人への)挑戦者になれると思ってるんですよ。あ、また欲が出てきちゃった!」。女流棋士生活22年目、まだ見ぬ舞台を。まだ見ぬ景色を鈴木は見続けている。(瀬戸 花音)