女優の伊原六花(24)が、地上波連続ドラマ初主演を務める日本テレビ系ドラマ「肝臓を奪われた妻」(火曜・深夜0時24分)が話題を呼んでいる。本作で元夫と家族に肝臓を奪われた母という難役を演じているように、ドラマ、映画、舞台と枠組みを超えた挑戦を続けているが、デビュー当時は「とりあえず」程度の気持ちだった。キャリアを重ね、覚悟を固めた軌跡を聞いた。(田中 雄己)

 比喩や誇張ではない。その大きな瞳にじっと見つめられると、吸い込まれる錯覚をおぼえる。一点の曇りもない伊原の笑顔は、周囲にも波及する。取材当日の紙面に掲載された所属事務所の先輩・広瀬アリス(29)と同じ特集だと伝えると、「姉さん!」と声を張り上げた。「よく飲んでいる写真とか送ってきてくれるんですよね。元気かなー」。まぶしい笑顔に、取材陣・スタッフも声を出して笑った。

 明朗快活、天真爛漫(らんまん)。天性ともいえるスター性は、デビュー以前から注目を集めた。2017年。所属する大阪府立登美丘高校ダンス部の「バブリーダンス」が話題になった。キラキラと笑顔を振りまきながら、キャプテンとして部員を先導する姿には、画面越しにも目を奪われた。本家の荻野目洋子と「日本レコード大賞」のステージに出場するなど大ブレイク。事務所から声がかかったが、それまでは「選択肢にもなかった」という芸能界。漠然と「ダンスに関わる仕事」ができればと思っていた。「小さい頃は習い事でミュージカルもしていましたし、ダンスもしていて表現することは大好きで。こんな機会は、一生に一度あるかないか」。迷った。悩んだ。「大変な世界だと思うけど、一度飛び込んでみたら」。両親の言葉に背中を押されて、覚悟を決めたが「全く未知の世界でしたので『とりあえず、とりあえず』と」。

 そっと、恐る恐る踏み出した一歩だったものの、流れるように時間がたった。卒業後に上京し、CMやラジオに出演。18年7月には「チア☆ダン」(TBS系)でドラマデビューした。初めてのドラマ放送を終えた頃、芸能活動を始めてちょうど1年がたった。「とりあえず」で踏み出した道を振り返ると、経験したことがない感情がこみ上げた。

 「なに、この仕事。メチャクチャ楽しいー」

 感情そのままに、のめり込んだ。「明治東亰恋伽」(19年)では映画初主演を務め、同年にはNHK連続テレビ小説「なつぞら」にも出演した。「本当に楽しかった。もともと舞台オタクでしたので、舞台やお芝居をできる環境がとても楽しくて」と思い起こす。

 順風満帆を地でいったが、ある時、笑顔が消えた。21年の舞台「友達」。山崎一(66)、キムラ緑子(62)、林遣都(33)、有村架純(31)らと舞台に立った。最年少の伊原は、途方に暮れた。「全くついていけない」。演技の質、会話の内容、仕事への姿勢。「好き」だけでは通用しない世界だった。「今までは、ただ目の前の作品を勉強して、できる限りのことをしていると思っていたんですけど。本当に、何の知識もないことに気づいて」

 悔しかった。それでも、辞める選択肢はなかった。もう「とりあえず」の仕事ではなくなっていた。時間を見つけては、舞台を巡り、戯曲を読み、本に浸る生活を送った。「あの舞台と出会えたことで、この仕事をただ楽しいだけじゃなくて、ずっと続けたいと思うようになりました」。「プロ意識」が芽生えた瞬間だった。

 伊原の眉頭が、少し下がった。トレードマークの笑顔から真剣な面持ちに変わった。

 「例えば、演じる上で『うれしい』の感情が必要な時、自分が生きてきた中で経験した『うれしい』の3つのパターンがあるとして。今までは、そのシーンに近しい『うれしい』を抽出していたんですけど、それは、自分の経験からしか出てこないもので」。身ぶり手ぶりが大きくなり、言葉のテンポは速くなった。「観劇や読書でインプットすると、引き出しが増える。色気のある役、小動物っぽいあざとい役。自分の性格の中には見当たらないような役柄にも意識を持てるようになって」

 言葉通り、演じる役柄は無限に広がった。NHK連続テレビ小説「ブギウギ」では華麗なタップダンスを披露し、「マイ・セカンド・アオハル」(23年、TBS系)では小悪魔的な女子大学生を演じた。「すっごい悩んでいた」というバラエティーへの出演も「何かにつながるのでは」とプラスに変えた。

 デビューから6年半。伊原の進化を、最も体感できるのが「肝臓―」。第1話の冒頭は鋭い目線と濃いメイク姿で「絶対に許せない」と叫ぶシーンから始まった。素顔からはほど遠い役柄を全うしている。

 「肝移植するとこれくらいの傷がつくんだという知識はあっても、実際に(メイクで)傷をつけてもらうと、現実味が湧いてきて。家族だと思っていたのに裏切られて、傷もうずいて。悔しくなったり、感情も想像できるようになってきて。『うわー』って」

 デビュー前から注目されてきたこともあり、その軌跡に日本中の視線が注がれる。この先は、どんな道を―。そう聞くと、「エンタメに区切りをつけたくない」と返ってきた。

 「芝居だけにかかわらず、ダンスや歌とか、表現することが好きで。将来的には、ミュージカルもストレートプレーも歌もダンスも全部やっていきたい。その全てに関わっていくためにも、まずは目の前のことを大切に、丁寧にやっていきたい」。「とりあえず」なんて半端な覚悟と言葉は捨てた。力強い言葉を発し、一切の濁りない瞳を輝かせた。

 ◆伊原 六花(いはら・りっか)1999年6月2日、大阪府出身。24歳。2015年、大阪・登美丘高に入学しダンス部に所属。17年に「バブリーダンス」がブレイク。18年から女優として活動し、同年7月、TBS系「チア☆ダン」でドラマデビュー。現在放送中の日本テレビ系「肝臓を奪われた妻」にて連続ドラマ初主演を務める。身長160センチ。