●千葉から昨年移住、近藤さん一家に次男・湊杜ちゃん誕生

 10世帯の限界集落に久しく聞くことがなかった赤ちゃんの泣き声が響いた。加賀市山中温泉の奥山に位置し、国の重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に選ばれている「加賀東谷」の4集落の一つ、今立町(いまだちまち)で35年ぶりに新たな命が誕生した。農家民宿の開業を目指して千葉から移住した一家にやってきた男の子は、過疎に歯止めが掛からない集落の希望の光だと地域の住民を喜ばせている。

 新たな命を授かったのは、近藤裕佑(ゆうすけ)さん(43)、妻なぎ沙(さ)さん(32)の夫婦。近藤さん夫婦は昨年4月、長男一武樹(いぶき)ちゃん(3)とともに千葉県習志野市から今立町に引っ越し、2月26日に次男湊杜(みなと)ちゃんが産まれた。

 今年3月まで今立町の町会長を務めた表幸英さん(65)によると、町では表さんの長男が産まれた1989年8月以来の赤ちゃん。30年ほど前から山中温泉塚谷町に生活の場を移している表さんだが、住民が10世帯14人にまで減り、高齢化が進んだ故郷の維持を担ってきた世話役で「久しぶりの赤ちゃんで集落が活気づいてうれしい」と喜ぶ。

 近藤さんは中学校の元教諭で、なぎ沙さんも保育士や幼稚園、小学校教諭の資格を持つ。近藤さんは長野で15年間、自然体験の指導者として活動した経歴もあり、子ども向けの体験教室と農家民宿を運営できる場所として、「森」「清流」「海」「雪」をキーワードに移住先を探していたという。

 赤瓦の屋根の家屋が特徴の重伝建「加賀東谷」は今立町のほか、荒谷(あらたに)町、大土(おおづち)町、杉水(すぎのみず)町の4集落で構成されるが、いずれも人口減少が著しい限界集落だ。

  ●来年民宿開業へ

 今立町の古民家2軒を購入し、キャンプ場運営のイトノモリ(加賀市)に会社員として勤務しながら、1軒を自らの住居、もう1軒をリフォームして来年の農家民宿開業を目指す近藤さん。「地元の皆さんと力を合わせ、集落を盛り上げていきたい」と意気込んでいる。