新垣結衣の悲痛さをまとった演技に目を引かれる！主演・阿部寛も認めるその演技力に注目の映画「麒麟の翼〜劇場版・新参者〜」

東野圭吾のベストセラー小説を原作とし、"泣けるミステリー"として人気を博した阿部寛の主演ドラマ「新参者」(2010年・TBS系)。その続編であり劇場版第1作となるのが、「麒麟の翼〜劇場版・新参者〜」だ。主役の刑事・加賀恭一郎を演じる阿部寛を筆頭に、ヒロインの新垣結衣など若手キャストを軸として、緻密な謎解きと見る者の心に訴えかける人間ドラマが展開する。

東京・日本橋に位置する翼のある麒麟像の下で、男性の刺殺体が発見される事件が発生。被害者の青柳武明(中井貴一)は死の直前、ナイフを刺されたままの状態で8分間も歩き続けており、刑事の加賀恭一郎(阿部寛)はその行動に疑問を抱く。容疑者として浮上したのは、青柳のバッグを持って逃走した青年・八島冬樹(三浦貴大)。しかし彼は逃走中に車にひかれ意識不明の重体となっており、冬樹の恋人である中原香織(新垣結衣)は彼の無実を訴えていた。警察が金目当ての犯行と目星をつけ、八島冬樹を被疑者として裏付け捜査を進める中、加賀はいくつもの不可解な点を明らかにするために独自の捜査を開始する。

被疑者の恋人役として出演する新垣結衣は、本作で本格ミステリーに初挑戦。2005年に女優デビューした彼女はCMでブレークを果たし、映画では「恋空」(2007年)、「ハナミズキ」(2010年)といったヒット作で主演を務めてきた。みずみずしいイメージが強い彼女が今回演じるのは、田舎から恋人と共に上京してきたごく普通の女性。可愛らしく純朴な雰囲気を残しながらも悲痛な空気感をしっかりと身にまとわせ、重体となった恋人の無事と無実を祈り続ける女性の姿にリアルな人間味を与えている。

そんな新垣の女優として成長した姿は、主演の阿部寛も認めるところ。新垣は女優デビュー間もない頃に「ドラゴン桜」(2005年・TBS系)で生徒役として阿部と共演しているが、しっかりと向き合って演技をするのは今回が初だったという。新垣が「阿部さんの目や口調で自然と役に入り込めた」と語る2人の共演シーンに注目したい。

主演の阿部寛にとって、寡黙な刑事・加賀恭一郎はすっかりハマり役となった。連続ドラマ版・SPドラマ版に続きシリーズ3作目となる今作では、加賀の人間としての感情にも焦点が当てられているという。それを象徴するのは、加賀と父親との確執を描く部分だろう。物語の冒頭から父親の三回忌という話題が繰り返し登場するが、それが今回の事件や物語全体に流れる「父から息子へのメッセージ」というテーマともリンクする。持ち前の冷静さで捜査に臨む加賀が事件を通じて父親の姿を目にするとき、そこに立ち上がってくる加賀の人間らしさを阿部がどう演じているかが見どころの一つとなっている。

劇場版ならではの豪華なキャストも目を引くが、中でも被害者の息子役を演じる松坂桃李や、その同級生役として出演する山﨑賢人、菅田将暉といった今や人気俳優として活躍する面々のフレッシュな姿には驚かされるばかり。特に松坂桃李が演じる被害者の息子・悠人は阿部演じる加賀とのシーンも多く、そんな若者たちに加賀が物語の中で投げかける含蓄のある言葉は、"泣けるミステリー"として名高い新参者シリーズの核心といえるだろう。ドラマ未視聴でも完成度が高く、ドラマ版からのファンであれば一層味わい深く鑑賞できる一作だ。

文＝本永真里奈