フェイスブックなどのSNSで、衣料品販売大手ZOZO創業者の前澤友作氏ら著名人に成り済ました人物の投資広告で金銭をだまし取られる事件が相次いでいる。最新デジタル技術に詳しい作家の浅沢英氏は、本紙の取材に「偽物を作って商売する人がいるなら、いたちごっこかも知れないが、その偽物を見破る商売も作るべき」と提言する。

 例えば社会に広がる真偽不明の記事や情報、フェイクニュースを調べる活動としてファクトチェックがある。専属記者を置けなかったり、資金不足で日常的に活動できないなどの課題はあるが、新聞社や非営利メディア、プラットフォーム事業者らが担うこの活動を、ネット広告にも広げるべきというのだ。

 浅沢氏はピカソ作品を施設から持ち出してデータ化し、3Dプリンターで本物そっくりの贋作を作って40億円以上で売るというサスペンス小説「贋品(がんぴん)」(徳間書店)を今月発表した。ミステリーやハードボイルド作家の登竜門、第5回大藪春彦新人賞受賞者の長編デビュー作。取材過程で、3Dプリンターや光学機器などの先端技術を目の当たりにした。

 「油絵の内部、下描きから顔料まで元素別に分かる時代です。まだ、直感的に偽物と分かる成り済まし広告もあるけれど、小説に書いた世界は2、3年先の未来だと思う」

 作中の贋作はデジタルデータを元に3Dプリンターで作った。成り済まし広告はデジタルデータから生成AIで作る。

 神戸市や東京都などの男女4人は先月、著名人に成り済ました人物の投資広告で金銭をだまし取られたのは、広告の内容が真実かどうかの調査を怠ったからだとして、メタ(旧フェイスブック)の日本法人に計約2300万円の損害賠償を求めて神戸地裁に提訴した。他にも、災害時に住宅水没の偽画像がネット上で出回ったり、政治家の声を編集した偽動画も拡散し、社会問題化している。

 本物と偽物、その境界線が消滅しかねない時代に我々は生きている。だからこそ矛には盾、専門家には専門家の知見が必要なのかも知れない。