「ずっとお世話になってきたネコたちのために何か恩返しがしたい」と考えていた毛利さんは、ネコ雑貨をつくる羊毛フェルト作家として歩み始め、ネコ関連の縁で佐伯市へ。現在は3匹の愛猫と古民家で同居し、有機栽培のレンコン農家としても活躍している。

掲載:田舎暮らしの本 2024年4月・5月合併号


佐伯市は九州の市町村で最も広い面積を持ち、日豊海岸国定公園、祖母傾国定公園、祖母・傾・大崩ユネスコエコパークなどの上質な自然に恵まれたまち。県内随一の水産都市でもある。大分空港から車で約1時間30分。

有機栽培と作家活動で
人とネコに優しい暮らし


さまざまな植栽が施された庭を望む築約90年の古民家。農具が置ける土間付き。

 大分県別市(べっぷし)在住時「ネコ雑貨をつくり、売り上げの一部をネコの保護活動に寄付しよう」と、羊毛フェルト作家になった毛利恵美(もうりえみ)さん(46歳)。あるとき、ネコのチャリティーイベント「福つなぎねこ展」が佐伯市であると知って訪れると、まちの雰囲気にひかれたそう。「ここに住みたい」と思っていたところ、地域おこし協力隊を募集していると聞いて応募。2020年春に移住して3年間、有機栽培推進の任務にあたった。

「活動のなかで農業経験のない私自身が有機栽培を楽しむことが普及につながると考え、レンコン栽培を始めました。薬膳の効能も興味深く、亡くなった母の戒名にある『蓮』とのつながりも感じられましたから」

 と、毛利さん。現在は農業とネコ雑貨づくりの「半農半猫」を掲げて取り組んでいる。

 忙しい日々の支えとなる愛猫は移住後3匹に。当初住んでいたアパートの2階の部屋だと、走り回るネコたちの騒音が心配に。そこで農具を置く場所もある6DKの平屋の古民家に引っ越した。

「ここなら広い空間があり、自由に走り回れます。緑豊かな庭にはたくさんの野鳥が遊びに来て、ネコたちも楽しそう」

 今後の計画は、この夏をめどに自宅で雑貨店「蓮猫堂(はすねこどう)」を開くこと。全国のネコ雑貨作家仲間の作品や、在来種の野菜のタネ、調理器具などを販売するほか、イベントやワークショップも企画していきたいという。


DIYでキャットウオークを自作。土壁にはツメとぎ防止のパネルを貼った。


和室2部屋と広縁をネコ部屋として利用。回遊型の動線になっているのがポイント。


「高いところから失礼します」と、くこちゃん。上下運動しながらのびのびとお散歩。


日当たりのよい広縁でくつろぐスミレちゃん。庭を眺めるのがネコたちのお気に入り。

ペットが暮らしやすい!

違い棚や地袋などがネコたちの遊び場に。自由に出入りできるよう扉を開けている。


農業に従事しながら羊毛フェルト作家「はすなご」としてネコ雑貨を創作。


愛らしいネコのブローチは1800円〜。現在は主に京都と長崎のショップで委託販売。Instagram:@has75cat


5畝から始まったレンコン畑は現在2反に拡大。「わたげ蓮根」と命名して出荷している。


レンコンは主に学校給食用に納品するほか、自宅でも調理して食卓へ。「食べているとおなかが快調です」と毛利さん。


雑貨店開業に先駆けて開いた女性デュオの「黒色(こくしょく)すみれ演奏会」。ネコにまつわる楽曲もあり、大盛況だった。今年夏も開催予定。

造作の多い家がオススメ

「私が住んでいる古民家のように造り付けの収納や棚が多ければ、キャットタワーなどを買わなくてもネコたちが自由に上下運動ができます。土壁や畳といった自然素材が基本の伝統的な日本家屋はネコたちにも安心。ただし、隙間風対策は必要です」(毛利さん)

毛利さんオススメ! 
ネコと共生する島「深島」

佐伯市南端に位置する周囲約4kmの離島。釣りのほか夏はマリンアクティビティのスポットとして親しまれる。宿泊施設は「でぃーぷまりん」(1 日1組)、深島地区集会所(素泊まりのみ)。蒲江港から定期船で約30分。


全域が日豊海岸国定公園に指定。漁業、観光業、「深島みそ」製造業が営まれる。

美しい海と穏やかな時間

「地域おこし協力隊の仕事で初めて深島を訪れました。『ネコがたくさんいる!』と最初は浮かれた気持ちでしたが、島の人たちがネコたちを本当に大切に思って暮らしている姿を見て感動。大切にしたいすてきな場所です」。そう話す毛利さんも購入した『深島ねこ図鑑』(1760 円)は島内などで販売され、売り上げの一部はネコたちのエサ代や医療費にあてられる。

すべてのネコに名前が付けられている。エサやり禁止など来島時はルールやマナーを厳守。昨年末時点で人口11人に対してネコ65匹が暮らしている。


周囲にサンゴ礁の海が広がり、シュノーケリングやダイビングなどのスポットとして人気。

文・写真/笹木博幸 写真提供/「でぃーぷまりん」安部さん