カラヴァッジョ20代の作品『果物籠を持つ少年』
カラヴァッジョ,『果物籠を持つ少年』, Public domain, via Wikimedia Commons
『果物籠を持つ少年』はカラヴァッジョが20代のころに制作した作品です。ミラノ出身のカラヴァッジョは、画家としての修行を積んだのちより仕事が多いローマへと移りました。
当時のローマは華々しいルネッサンスから対抗宗教改革の時代に移行する最中であり、新しい装飾のための依頼を受けられるチャンスがあふれていました。多くの芸術家がキャリアの足掛かりをつかむためにローマを訪れ、カトリック教会やローマの有力者とのコネクションを作った時代です。
依頼主やいきさつについては不明な点も多いものの、『果物籠を持つ少年』はそんなカラヴァッジョのローマ時代に制作されたものであると考えられています。(カラヴァッジョの作品ではないと考える学者もいますが、一般的には彼の作品と認識されている)
『果物籠を持つ少年』の明確な陰影表現
カラヴァッジョ,『果物籠を持つ少年』, Public domain, via Wikimedia Commons
『果物籠を持つ少年』では、カラヴァッジョの最大の特徴でありその後の彼のキャリアを開くきっかけとなった「陰影表現」がすでに見られます。カラヴァッジョの作品では背景は無地などシンプルなケースが多く、この作品も例に漏れず無地の壁に少年の陰だけが映っています。
若々しい少年は、美しく妖艶な顔とは対照的に筋肉質な身体をしていることがわかります。体の凹凸が際立つよう意図的に暗い場所で強い光を当てられているようにも見えますね。
少年が着ている服のひだにも、布の質感を感じさせる陰影があり、さらによく観察すると果物籠の木材には異なる質感があります。カラヴァッジョは影と色で物質の特徴を伝えることに非常に長けた芸術家でした。
構図は一般的で静的でありながら、強烈な陰影がある種のドラマチックさを作品に与えていますね。つややかなぶどうの表面に反射する光は、カラヴァッジョの物体への詳細な観察を感じさせます。
生き生きとした果物?
カラヴァッジョ,『果物籠を持つ少年』, Public domain, via Wikimedia Commons
作品の構成要素はいたってシンプルで、少年が果物籠を手に抱えているだけの絵です。しかし『果物籠を持つ少年』の果物籠はそんなシンプルさを感じさせないほどの芳醇な魅力が詰まっています。
果物籠にはイチジク、ザクロ、リンゴ、さまざまなブドウなど、たくさんの種類が混在しています。興味深いことにフルーツは理想化されているわけではなく、熟して割れているものや、反対にまだ食べごろには早いものもあります。
ルネッサンスの理想主義的美術を脱し、「本物の写実主義」を目指すカラヴァッジョの取り組みが、初期のこの作品にはすでに表れています。つまり、果物は一番美しい状態ではなく、現実に見えるままの状態で描く選択をしているということです。
果物籠に含まれる葉には、虫が卵を産み付けているものもあります。一般的に「醜い」と思われるものでさえも、現実の一部として忠実に再現することがカラヴァッジョの哲学だったのでしょう。
以上、カラヴァッジョの『果物籠を持つ少年』の解説でした。