ストレスで熱が出たという経験がある人は多いのではないでしょうか。周りから仮病ではないかと疑われたり、「気のせい」だと無理してしまったりしがちですが、じつは「機能性高体温症」という病気の可能性があると、高座渋谷クリニック院長の武井智昭先生はいいます。その症状と原因、治療法について詳しくみていきましょう。

ストレスで発熱…「心因性発熱(機能性高体温症)」とは

「心因性発熱(機能性高体温)」とは、主に精神的なストレスによって自律神経失調により生じるものです。だいたい37℃台の体温上昇がみられます。

のちほど詳述しますが、一般的な感染症や自己免疫疾患などが原因の場合は、炎症が関与し「サイトカイン」という物質が分泌され発熱が起きます。そのため、治療の際はサイトカインを鎮静させるカロナール等の解熱鎮痛薬が効果を発揮します。

一方、心因性発熱など原因がストレスである場合、サイトカインの分泌ではなく「自律神経失調(交感神経が優位となり休んでいない状態)」が作用しているため、解熱鎮痛剤の効果はありません。周囲から「詐病・仮病」と判断されることもあるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の後遺症においても、頭痛・微熱が続く場合この「心因性発熱(機能性高体温症)」が疑われ、心理的治療で改善した例が比較的多いです。

今回は、この「機能性高体温症」の原因や治療法についてみていきましょう。

9割は感染症だが…実はさまざまある発熱の原因

新型コロナウイルス感染症の流行下では、これまでより発熱に対して敏感になった方も多いかと思います。

発熱したらまず新型コロナウイルス感染症を疑い、薬局などで購入した抗原キットによる検査を自宅で実施する方は少なくありません。それでも改善しない場合には血液・尿検査・他の微生物検査などを実施されることもあります。

発熱が続く原因の9割以上は、新型コロナウイルスを含めたなにかしらのウイルス(インフルエンザ、RSウイルスなど)、細菌(溶連菌、マイコプラズマ菌、大腸菌など)による感染症ですが、それ以外にはリウマチなどの自己免疫疾患、腫瘍などが考えられます。

また、まれに自宅にあった解熱鎮痛薬や抗菌薬などを自己判断で内服し、その内服薬に対するアレルギー反応として発熱した「薬剤熱」であることもあります。

上記のような原因がなく心理的なストレスと判断された場合、「機能性高体温症」が疑われます。

「発熱」のメカニズム

ウイルスや細菌感染、自己免疫疾患の過剰な免疫による発熱の場合、「炎症性サイトカイン」と「プロスタグランジンE2(PGE2)」が分泌され、それらが中枢神経に作用して交感神経が優位となり、体温が上昇します。

漢方薬の麻黄湯(まおうとう)には、発熱を引き起こすサイトカインの産生を抑える効果があり、また他の一般的な解熱鎮痛薬はプロスタグランジンE2の産生を抑える効果があります。感染症の際にはそれらを内服することによって解熱することができます。

一方、一定の精神的ストレスにより生じた「機能性高体温症」では、前述とは異なるメカニズムで交感神経の働きが活発になり、体温が上昇します。

サイトカイン・プロスタグランジンE2のレベルは変わらないため、医療機関での血液検査でも白血球数・CRPなどの炎症反応の数値には変化がみられません。このため、漢方や解熱薬を内服しても体温降下はみられません。

苦手な人と接する、極度の緊張…「機能性高体温症」の原因

上記のようなさまざまな検査や治療を行っても解熱鎮痛薬等の効果がなく、他の疾患を除外した状態でなにかしらのストレスがあることが確認される場合には、「機能性高体温症」と診断されます。

こうした発熱は、

・緊張度の高い仕事をする
・苦手な人と接する
・人前で話すなど極度に緊張する
・他人と激しい口論を交わす
・いじめられる

など、心理的に追い込まれて心身ともにリラックスができず、精神的に追い込まれる状況から、交感神経が優位となり発熱がみられます。

極端な例では、資格試験など試験の前日に37℃後半の高熱が出たが、試験終了後には解熱しているというケースも機能性高体温症に含まれます(現在はコロナ対策などの観点から、試験会場にある体温チェックで入室できないと思われますが)。

機能性高体温症は性別や年齢を問わず、子どもから高齢者まで起こる可能性があります。特に小児や若い方では、成人と比べて熱が出やすいため、小さな刺激でも体温を上げる機能が働き、生じやすいです。また、ストレスが続く場合には倦怠感・頭痛・嘔気・腹痛などの他の症状が伴っていることも多くあります。

子供の機能性高体温症は、これまで親などからの過剰な期待に応えるタイプのお子さんがかかってしまうことが多かったのですが、最近では発達障害に関連した不登校・学校生活への不適応、虐待を受けている子供がかかるケースが増えてきています。

成人では、職場環境に起因した抑うつ、不眠、不安などに付随して症状が出るケースが増加しています。また、機能性高体温症は新型コロナウイルス感染症後遺症の症状のひとつですが、やはり心理的・社会的な負担が主原因であることが多いです。

発熱は「休め」のサイン

機能性高体温の治療は、ストレスを減らすための生活指導・心理治療がメインです。薬物治療の対象は生活に支障が出ている部分への対応となります。

微熱・倦怠感の場合は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)・十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)といった漢方薬や抗不安薬、SSRIなどの抗うつ薬が有効となります。不眠がある場合には睡眠導入剤が、動悸が強い場合にはβ遮断薬などが投与される場合もあります。

心理療法の場合、原因となる対人関係や職場環境を確認して、学業・仕事・家事のペースダウンを行い、「発熱は体・心のSOSであり、休めというサイン」であることを理解したうえで、精神的ストレスの低下を図ります。気分転換のための休暇や趣味を見つける、入浴する、十分な睡眠をとるなどの休息が重要です。

<参考URL>
ストレスによる高体温症(テルモ株式会社)
http://www.terumo-taion.jp/health/stress/01.html