コロナ禍に広まったリモートワーク。そのメリットもデメリットも把握できたところで、2023年の5類移行に後押しされ、現在は出社頻度を上げつつ、ハイブリッドワークを採用している企業が少なくないようです。

 オフィス以外でも働けると分かったことで、多くの企業が「出社の価値とは何か?」「どのようなオフィスなら、出社したくなるのか?」といった問いに直面しています。各社はどのような考えのもと、オフィスをリニューアルしているのでしょうか。

 パーソルイノベーション、リロクラブ、otonohaが共催したセミナー「人材確保×職場定着 強い組織をつくる人事戦略」より、otonohaの竹本悠平氏(sound veil事業部 事業部長)の講演の様子をリアルにお届けします(以下、発言は竹本氏)。

●サク読み!セミナー記事

 ビジネスパーソンの情報収集の一つの手段として定着したオンラインセミナー。特定のトピックに知見がある人物の語りに触れられる機会であり、記事や書籍とはまた異なる魅力があります。

 業務の改善やスキル向上などに役立てたいところですが、思うように時間を割けないという人も多いのでは。日々忙しく過ごす読者のために、編集部注目のオンラインセミナーの模様を、ライブ感はそのままにお届けします。

●人の行動は環境で変わる

 今回は人材確保・職場定着を後押しするオフィスの環境作りについてをテーマにお話できればと思います。先ほど「人」の話がありましたが「場所」も重要だというお話です。

 オフィスを構成する要素は働き方、人、環境、この3つに分けられるのではないかと思います。人材がどう定着していくか、どういう働き方を整備をしていくのか、そして場所のファクターがあります。

 私のパートでは、環境にフォーカスを当ててお話する流れになっております。なぜ、ワークプレースの話なのか。生態心理学者のアフォーダンスの理論に、人の行動は個々人の特性を知るよりも彼らがいる環境を知ることにより、より正確に予測できるというものがあります

 例えば会議室の中では机の大きさによって人との距離も決まり、話しやすさも変わってきます。席の離れた人との会話は、日常的にどうしても減っていく傾向にあります。

 多くの人は環境に自分の行動が決められているとは思っておらず、意識していませんが、環境は行動を制限する材料です。

●コロナ禍を経て出社が増加 

 もっとカジュアルにお話をさせていただくと、今の働き方っていかがでしょうか。今日もウェビナーでこのような形でお話をさせていただいていますが、コロナの前後でだいぶ変わってるんじゃないかと思います。

 ある調査をご紹介します。働く場所ごとの時間について、コロナの前と後で聞いたものです。地域別に調査していますが、どの地域をとってもコロナ後には、明確にオフィスでの勤務が増加しています。出社頻度も、増えたという比率が4分の1程度。報道で耳にする外資企業の取り組みと、肌感としても合っていると思います。

●出社に戻しつつ「Web会議用のブース」設置がトレンド

 こうして出社が増え、オフィスに設置を検討したいスペースは何かを聞いたアンケートがあります。コロナ前、コロナ後で企業の総務を対象に取ったものです。

 リモート会議用のブース・個室が、比率としてはすごく伸びてきています。出社してくださいとお願いしていて、かつリモートに対応した部屋を作る。こういう方向性がアンケートの結果からも見て取れます。

 コラボレーションを生み出したい、新しい事業を生み出したいというところも当然あり、ミーティングスペースを作ってもいるんですが、一方でブースの課題も出てきます。こうした背景から、良いとこ取りのハイブリッドワークにしていこうと。テレワークも含めて、オフィスに出てきても、拠点間の打ち合わせはWebでやるなど、方向性が変わってきているのが見て取れます。

●人材確保を意識し、ワークプレース戦略を立てる企業も

 人材確保の面から見たときに、これらはどんな影響があるのでしょうか。先ほど、働く場においても、環境の影響からは逃れられないとお話しました。

 オフィスの環境はコストとして捉えられるケースが多いのですが、人材確保や人的資本の観点からワークプレースの戦略に対する意識についてアンケートで質問したところ、7割以上の企業が「重要」と回答しています。

 ここが与える影響が、採用に関してはかなりキーポイントになってきているかなと思います。外資企業含め「テレワークじゃないと、人材が確保できない」という話も、やはりあります。オフィスの価値の重要性が高まっていると言えるのではないでしょうか。

●オフィスに集まる意義が問われている

 オフィスに集まる意義とは何でしょうか。先ほどテレワークのブースを増やす話をしましたが、安心ある施策とは何かを考えると、何をするためのオフィスにするかが如実に出ています。

 コミュニケーションを取るための場を作りたい。集まるための機能を重視する。フレキシブルなレイアウトにする。オフィスのデジタル化をする。このようにですね、特にコミュニケーションをするための場作り、集まるための機能を重視するといった施策に差が出やすい状況です。

●キーワードは「ウェルビーイング」「チームワーク」「帰属意識」

 「なぜ出社させるのか」「出社する目的は何だ」となる中で、よりオフィスへの投資が増えてきています。

 ただ、今私がお話した内容はどちらかというと、企業側の目線、経営側からの目線です。これをワーカーの方から見たときにどうかというアンケートの結果を見ると、3つのセグメントに分けられそうです。

 まず、環境はどういうふうに作用するのか。物理的快適性、機能的快適性、心理的快適性の順番で良いオフィスという建付けになります。単純に雨風をしのげるものから、通信の環境が良い環境。そして一番良い状況だと、ウェルビーイングに寄与したり、チームワークを促せたり、帰属意識を感じられたりするようになってきます。アイデンティティーを持たせたオフィスの作り方が重要になってきています。

 とはいうものの、どのような施策でこういう手が打てるのかというのは、悩ましいところです。本日の登壇のシメとして事例の話をします。

●五感を刺激するオフィスで心理的快適性の向上を狙う

 先ほどのお話にあった通り、目指すべきところは心理的快適性が高いオフィスです。そのためにできることして、一つのノウハウをお話できればと思います。心理的快適性を高めるオフィス作りに必要なのは、聴覚以外の五感情報を刺激する要素を入れることです。

 五感による知覚について、視覚は「見た目がかっこいいオフィスを作りましょう」「アイデンティティーあふれるオフィスにしましょう、良い家具を置きましょう」「ソファー席を置いてコミュニケーションを取りましょう」とアプローチできます。

 しかし、人間はなかなかそれだけでは反応してくれません。比率で見ると、耳の情報は1割ほど。香り、嗅覚の情報は3%ほどなんですけども、人間はクロスモーダルと呼ばれるような五感の相互作用を受けます。

 このあたりをうまく取り入れていくと、心理的快適性の高いオフィスになっていきます。ブランディング、帰属意識にも寄与していくオフィス環境が作れるんじゃないかなと。

 ハード構築とは、家具や床、壁、天井の見た目ですね。物理快適性に関してプラスアルファのソリューションができるところに対して、視覚や聴覚、味覚を担保したオフィスは、心理的快適性、機能的快適性が満たされたオフィスになります。

 音を使った場合に、どんなことができるのか。「音漏れがひどい」「Web会議をしていると、隣の声が入ってくる」「会議室が占領されてしまう」といった問題を解決する方法があります。加えて「会話が弾む空間を作りたい」「リラックスな空間を作りたい」という希望に寄与できるところがあるのではないかと。

●立体音響で帰属意識を高めるアプローチ

 最後に事例の紹介です。ライオン様の事例で、本社を移転されまして、主要フロアの音空間を演出しておられます。

 1階のエントランスは、アロマ畑を演出するようなすごく見た目に気を使われたオフィスで、アロマ畑にいるような香りを想起させる音をさりげなく流す空間演出を、立体音響によって再現しました。

 来客エリアには、上にあるカフェテリアやR&Dのブースにも、おのおのに合わせた空間演出を入れることで、五感を想起して、帰属意識を高めていくことにも貢献するのが狙いです。

 またコワーキングオフィスの事例で、当社の本社があるpoint 0 marunouchiというオフィス。「『働く』を再定義する」として、オフィスの中に多様な状況の場所を作っています。

 チェアやソファーなど、幅広くありますが、ワークシーンがやはり異なりますので、音の大きさをグラデーションさせたいという高度な要望に対して、当社のサービスを活用して、特性に応じた環境設定を可能にした実例です。

●稼働率が落ちたコワーキングエリアに、音や香りの演出を実施

 最後はですね、ワークスペースのリプレースというところで、三菱地所の新しいオフィスにですね、納入した事例です。三菱地所様は18年に本社の移転を実施され、設けていたコワーキングのエリアの稼働率が、コロナの後にすごく低くなりました。ここの稼働率を上げる施策として何かできないかということで、音や香りの演出をご相談いただいております。

 データを取り、実際にどういう使われ方をしているのかや、どういうソリューションが良いのかを検討しながら、具体的なオフィスを作っているところです。

 居心地の良いオフィスを作るのは、短期的には費用のかかる投資という側面もありますが、従業員の働き方に貢献するソリューションになります。