サイバーエージェントがプロレス事業で業界トップを目指そうとしている。

 同社のプロレス事業子会社「CyberFight」が新体制を発表した。6月1日付けで、サイバーエージェント 執行役員副社長の岡本保朗氏が、CyberFightの社長に就任する。岡本氏は2000年4月にサイバーエージェントに入社。同社インターネット広告事業本部統括本部長などを経て、サイバーエージェントの広告事業展開を国内トップシェアに導いた。2020年12月からは執行役員副社長に就任し、同社全体の経営に携わっている。

 DDTプロレスリング創業者で、CyberFight初代社長の髙木規(リングネーム:髙木三四郎)氏は、6月1日から取締役副社長としてDDTプロレスリングと東京女子プロレスの経営に専念する。7月21日の両国国技館大会をもってプロレスラー休業も発表していた。

 CyberFightは2020年9月、プロレス事業の管理業務を一本化することを目的に設立。その際、サイバーエージェントグループ入りしていたDDTプロレスリング(2017年)、プロレスリング・ノア(2020年2月)、プロレスの動画配信事業として2020年5月にスタートした「WRESTLE UNIVERSE」が経営統合された。現在「DDTプロレスリング」「東京女子プロレス」「プロレスリング・ノア」の3団体が所属する。

 5月16日に実施された新体制発表の記者会見では、岡本氏、髙木氏に続き、プロレスリング・ノアの運営に携わるCyberFight取締役の武田有弘氏、元プロレスラーでABEMAプロレスアンバサダーの武藤敬司氏が登壇。髙木氏は「新体制によってDDT、東京女子プロレス、ノアのリング内の部分が変わることは一切ない」と明言した。

 今後の展開について、CyberFightは「(米国のプロレス団体、興行会社である)WWEとの関係強化」「新規協賛企業の獲得」「ABEMAでの生中継強化」を掲げた。新規協賛企業には、すでに新たな2社の協賛が内定し、今後さらに協賛企業獲得を目指していく。

 プロレスリング・ノアは、総合格闘家の佐々木憂流迦選手とプロレスラーのEita選手の入団、武藤敬司氏のスカウティングアドバイザー就任を発表した。DDTプロレスリングは、プロレスラーの蝶野正洋氏と地域防災を目的とした「STF(Safety Task Force)プロジェクト」の開始、芸能プロダクション・サンミュージック協力の下で15〜19歳の男性を対象としたプロレスラーオーディションの開催、8月24日には英プロレス団体EVE合同興行を皮切りに東京女子プロレスの海外興業活発化を発表した。

●課題は動員数の増加 岡本新社長の“一手”とは?

 CyberFight社長就任にあたって「サイバーエージェントグループ随一のプロレス格闘技ファンの一面を持ち、プライベートでプロレスや格闘技観戦を楽しんでいる」と紹介された岡本氏。新社長の打診に対しては「すごく光栄なお話だったので、2つ返事でお受けした」と明かした。髙木氏は、これまでも目標に掲げていた「CyberFightを業界ナンバーワンの会社にしていきたい」と話す。

 一方で、CyberFightでは赤字経営が続く。2023年12月11日付の『官報』に掲載された「決算公告」では、2023年9月期(第20期)の決算は最終損失が1億400万円で、14億7800万円の債務超過となっている。

 業績の立て直しが期待される岡本氏は「リング内に関しては選手とスタッフに全幅の信頼を置いている」と話した。自身はCyberFight全体の経営に集中し、サイバーエージェントグループのシナジーを生かした取り組みに注力していくという。具体的には、カラーが異なる3団体をそれぞれの色で大きく伸ばしてくことを基本線とし、集客力、動員力を上げていくことが大きなポイントだと説明した。要となる選手の発掘と、若いプロレスファンの獲得が重要となる。

 アイティメディアの取材に対して岡本氏は「基本的に若いプロレスファンには、若い選手の方が共感してもらえるんじゃないかと思っている」と話した。「プロレスラーが一番重要」であるからこそ、未来のスター選手を自分たちで発掘することを丁寧にやっていくという。

●次世代のスター選手発掘 他団体の一歩先を行くには?

 プロレスリング・ノアの新人発掘を担う武藤氏は、あらゆる企業が優秀な人材獲得のために初任給を上げてきている流れにプロレス界も逆らえないと考えを明かした。

 岡本氏に対しては「3年後、5年後の先を見越した予算を出してほしい」と要望する。その背景には、2023年の団体動員数国内1位の新日本プロレスで長く活躍したオカダ・カズチカ選手(1月31日付で退団)が、2019年5月に米国で旗揚げされたプロレス団体「AEW」と大型契約を結んだニュースがある。武藤氏は「夢のある世界なので若者にノアの門をたたいてほしい」と呼びかけた。

 武藤氏に新人発掘プランについて聞くと「20年ぐらい前、当時は斬新だった武藤塾という一般の観客を入れたところでオーディションをやって、いろんな団体でトップに立つ選手を育てた実績がある」ことを振り返った。一方で肌感覚として「これからは新しい形が必要になる」と話す。

 「ひょっとしたら、プロレス界でも、寿司(すし)店のような職人気質な指導をする風習など、システム全体を変えたほうがいいのかもしれない。あとは日本だけにこだわらず海外からも優秀な人材を獲得していきたい」と考えを明かした。

●グループシナジーをどれだけ生かせるのか

 CyberFightには、すでに所属団体の経営や後進育成に実績のある人材がそろっている。動員数を増やす上ではサイバーエージェントグループのシナジーが必要になるだろう。

 岡本氏は一番分かりやすい例として「新たな協賛企業を増やすこと」を挙げつつ「グッズや映像などのクリエイティブ面のバックアップ、ネットを活用したプロモーションの改善」に取り組んでいくプランを明かした。確かに広告を始めメディアに関わるあらゆる業態を改革してきたのがサイバーエージェントだ。同社を率いてきた岡本氏の手腕に、注目が集まる。

(乃木章、アイティメディア今野大一)