平日の午前中だと、市役所には高齢者や乳児連れの女性が多く静かなイメージを持っている人も多いことでしょう。

 ところが、今回話を聞いた女性はそんな市役所で驚きの光景を目撃したそうです。いったいどんな光景だったのでしょうか。

平日の晴れた日に子連れで市役所へ

 ※写真はイメージです(以下同) 田中みほさん(仮名・34歳)は1歳の娘を持つ、育休中の主婦です。その日は、育休明けの保育園について相談しようと市役所に向かいました。

「市役所は自宅から徒歩20分くらい。娘を抱っこ紐で抱きながら歩くと、じんわりと汗をかいて散歩にちょうど良い距離なんです。普段から、産後の運動にと散歩コースにしているのですが、あの日は保育園の空き状況が知りたくて」

 1歳の娘をあやしながら、市役所の保育課で保育園入園の相談をしたそう。

「近隣の保育園のことや、手続きの時期などを教えてもらいました。私の他にも子連れで相談に来ている人もたくさんいましたね。お天気も良かったので」

相談が終わって帰ろうとすると

納税課 みほさんが相談した保育課の、通路を挟んだ向かい側にあったのが「納税課」だったようです。

「私は用事を済ませて帰ろうと思ったのですが、娘が少しぐずったので保育課内にある小さな遊び場に娘をおろしました。時間もあったので、少しだけ遊ばせてから帰ろうと思って」

 保育課が用意した小さな遊び場で、みほさんが子どもを遊ばせていると、ものすごい罵声が聞こえてきたんだそう。



振り向くと納税課で場違いな男性が

納税課「子どもは遊びに夢中で気づいていませんでしたが、私はその罵声にびっくりしてしまいました。男性の太くて低い大声で、『オメェはよ、ちゃんと確認したんか?』と言葉も強かったですね」

 保育課の遊び場にいるみほさんが、振り向いたところにあるのが納税課でした。

「罵声がする方を振り向くと、ヤクザ映画に出てくるような男性が座っていたんですよ。恰幅が良く、スーツ姿にゴールドのネックレス、手にはハンドバックを持っていましたね。髪型もくるくるしたパーマで、大きめの色が薄いサングラスを付けていて。年齢は50代くらいかと思います」

納税課の職員3人がかりで対応

納税課 いかにも怖い人という風貌の男性が、納税課の職員を怒鳴り付ける姿にみほさんは目を見開いたといいます。

「その男性は『おい、もっとえらいヤツを連れてこい!』と言って、女性1人、男性2人の計3人の職員が出てきていましたね。その後も、『そこまでは払った、ちゃんと調べろよ』と怒っていました」

 納税課の職員は3人とも腰を低くし、頭を下げながら対応していたそう。



イカつい男性に「おい!」と声をかけられて

納税課 すごく怖くて、市役所も静まり返っていたそうです。

「そんな中ですよ、その男性が私の方を向いて『おい! こっちこいや!』と叫んだんです。あの時はびっくりし過ぎて、泣きそうでした」

 男性の声にビクッと肩を震わせたみほさん。しかし、男性が呼んだのは、みほさんではありませんでした。

「私たちの他に、もう一組の母子が遊び場で遊んでいたんです。その方が、男性に呼ばれたようでした。私よりも若い感じの女性と、6ヶ月くらいの赤ちゃんだったんですけど」

 20代前半と思われる女性が、小さな子どもを抱いて納税課へ歩きます。

「こんな状況で税金、払えねえんだよ」と泣き落とし

納税課「2人は夫婦だったようです。あまりに年齢も雰囲気も違ったので、驚きましたね。女性が納税課のほうへ行くと、男性は『今、こんな状況でよ、税金、払えねえんだよ。わかるか?』と職員を諭すように言っていました」

 その後、男性は職員たちに「何か策はないか?」と相談していたそうです。

「最初にあれだけ周りの注目を浴びて職員や来庁者を怖がらせたのに、最後は自分の状況を伝えながら泣き言のように訴えるって……。なんか、やり方まで怖い」

 普段は平和な市役所にも、ときどき変わった市民が訪れるようです。自治体職員の苦労も垣間見えたエピソードでした。

<取材・文/maki イラスト/魚田コットン>