中古車販売店「ビッグモーター」は伊藤忠の支援を受けていよいよ新会社として2024年5月1日に発足することが明らかになっています。そうした中で盗難被害が相次いでいると言いますが、その実態はどうなっているのでしょうか。

「内部犯行説」はあり得ない!ビッグモーターの盗難、実は50台以上?

 最近、中古車販売店「ビッグモーター」での盗難被害が相次いでいることが話題となっています。
 
 一部からはかねてからの不祥事の印象もあり「自作自演ではないのか」という声が出ていますが、実際のところはどうなっているのでしょうか。

 ビッグモーターは伊藤忠の支援を受けていよいよ新会社として2024年5月1日に発足することが明らかになりました。

 大規模な保険金不正請求や街路樹の意図的な損壊、従業員の不当解雇やパワハラ問題など数々の不正行為に関する賠償、返金などの「負の遺産」は新会社には引き継がれず、旧ビッグモーターが残務処理を行うことがわかっています。

 さて、そのビッグモーターでは2024年1月28日に館林店(群馬県)で8台が盗まれたことに始まり、3月に春日部店(埼玉県)で3台、4月に入ると一気に被害が拡大しこれまでに合計29台の盗難が発覚しています。

 ただ、筆者が独自に関係者へ取材をしたところ実際には50台以上が盗まれているという情報も入手しました。

 盗まれたクルマが事故を起こす例も起きています。

 2024年4月5日にビッグモーター甲府店から盗まれた2台のうち1台が店舗近くの交差点で出合い頭に盗難とは関係のない一般のクルマと衝突。

 塀にぶつかったあと、現場近くにある民家の敷地内でクルマを乗り捨てて逃走する3人組の様子が防犯カメラに記録されていました。

 ビッグモーター関係者によると「盗みやすい場所にあるクルマを手あたり次第盗んで行った状況」だといいます。

 また、現在は退職していますが、かつて在籍していたビッグモーター店舗で実際に盗まれた経験を持つ関係者は以下のように話してくれました。

「今年に入って目立って増えていますが、展示車両の盗難は私が在籍していた店やその周辺でもよくありました。

 西日本は少なく北関東の店舗での盗難が多かったです。

 ビッグモーターではもちろん、セキュリティも入っていますし、カメラも複数個所設置しています。
 夜間、駐車場に入れないよう出入口の前にはトラックなどをおいて物理的に入れないようにガードしていますが今回の盗難ではそれらを突破して、フェンスを壊して盗んでいます。

 アルファードなどの盗まれやすい高級車は離れた場所(出入り口から離れた場所)に駐車しているので、被害は少ないかと思います。

 おそらく出入口に近い場所にとめてあり、盗みやすく、駐車場から出しやすいところにある人気車種を選んで盗んで行ったのではないでしょうか」

相次いでいる盗難被害…内部犯行説はあり得ない?

 ビッグモーターの店舗から多数の展示車両が盗まれたことに関することは多くのメディアが報じています。

 中にはきちんとした取材もせず「内部犯行説」をとなえるメディアもあります。それらの内容を要約すると以下のとおりです。

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 ・展示車両には保険がかけられているからビッグモーター側は盗まれても損害はない。

 ・ビッグモーターの社員なら盗難後に転売して換金できるルートも熟知している

 ・給料が大幅に減ったので、展示車両を盗んで換金し、生活費の足しにする

 ・社員なら店の防犯体制を熟知しているから一気に複数台の盗難も簡単
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 このような内容が書かれています。しかしこれら内部犯行の可能性は1%もないと筆者は考えます。

 伊藤忠との新会社が間もなくスタートするビッグモーターでは、コンプライアンス(法令順守)を最優先事項としており、そのような状況で店から商品である展示車両を盗むなんてことはあり得ない状況です。

 また、展示車両(商品車)にはすべての店舗において原則として車両保険を含む任意保険をかけていません。

 ビッグモーターの在庫台数は数万台ですから、在庫の数だけ保険をかけたらとんでもない金額になるため商品車に保険はかけていないのです。

 なお、客がクルマを見に来て展示車両を試乗することもありますが、試乗ができるのは私有地である構内のみで、公道を走ることはありません。

 また、ビッグモーターでは代車も数多く用意されていますが、こちらも保険はかかっておらず、使用する場合は利用者(お客)の自動車保険〈他車運転特約〉を使うことを自動車保険の証書と共に、借りる際に確認します。

 盗難車を換金する場合も当然ですが、すんなりとはいきません。

 盗難で警察に被害届が出されると受理されて諸々の処理が終わった翌日午前10時には国交省(運輸支局)に盗難情報が流れてきます。

 登録事項等証明書の「現在記録」において、盗難で被害届が出ている情報が追記されるため、このようなクルマが正規の中古車流通ルートに載って売却されることはまず不可能です。

 したがって「内部犯行」や「自作自演」で「盗難されたことにして保険金をだまし取る」「盗難したクルマを中古車として市場に出す」などは絶対にできないのです。

 ちなみに、保険をかけていたとしても中古車店などで盗難された車両の保険金について満額支払われることは非常に難しい現状もあります。

 ビッグモーターの展示車両盗難に関しては広域において大量に盗まれており、事故も発生、乗り捨てて逃走という状況もあるため各地の警察は捜査に力を入れているとのこと。今後の捜査結果に期待をしたいところです。