「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」(通称:人テク)が、2024年5月22日から5月24日の3日間にわたってパシフィコ横浜(横浜市西区)で開催されています。今回は、デンソー、アイシン、ジェイテクトのブースを訪ね、担当者に聞いた展示製品のウラ話をリポートします。

自動車技術のための国内最大の技術展「人テク」でブースを突撃取材

 公益社団法人自動車技術会が主催する「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」(通称:人テク)が、2024年5月22日から5月24日の3日間にわたってパシフィコ横浜(横浜市西区)で開催されています。

 本イベントは、世界に向けて最新技術や製品を発信することを目的とした自動車技術のための国内最大の技術展で、自動車技術者や研究者をはじめとする業界に携わる人々が技術の議論をし、交流をする場となっています。

「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」の出展社数は、初出展56社を含む590社で、出展内容として「世界初」が15件、「日本初」が19件ありました。

 今回は、くるまのニュース編集部が気になった、デンソー、アイシン、ジェイテクトのブースを取り上げ、担当者に展示製品のウラ話を伺った様子をリポートします。

デンソー PHEV用インバーターのカットモデルを同社ブース初公開

 デンソーは、先進的な自動車技術、システム、製品を提供するグローバルな自動車部品メーカーです。

 同社は、クルマで培った技術をコアに「環境」と「安心」分野における提供価値を拡大するとともに「自動車業界のTier1」から「モビリティ社会のTier1」へと進化するために「モビリティの進化」「新価値創造」「基盤技術の強化」という3つのチャレンジに取り組むとしており、同社のブースではこれらに関わる各種技術と製品を紹介しています。

 チャレンジの1つ目「モビリティの進化」では、カーボンニュートラル社会の実現と交通事故死亡者ゼロを目指し「電動化」と「ADAS(先進運転支援システム)」領域において技術開発を進め、モビリティの進化に貢献していくとし、「PHEV用インバーター」「eVTOL用e-モーター」「『Global Safety Package 3』 前方広角画像センサー」を展示しています。

 チャレンジの2つ目「新価値創造」では、クルマで培ってきた技術をコアとし、価値提供範囲を広げ、モビリティ社会の発展に貢献すべく新たな事業を進めているとし、エネルギーとサーキュラーエコノミーの領域における取り組みとして「SOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell / 固体酸化物形水電解装置)」「バッテリーパスポートに向けたトレーサビリティ技術」を紹介しています。

 チャレンジの3つ目「基盤技術の強化」では、同社がモビリティの進化と新価値創造に取り組む上で、今後のカギとなる半導体とソフトウェアといった基盤技術の強化に取り組んでいるとして「車載半導体」「SDV(Software Defined Vehicle)」「ソフトウェア領域の人材育成」の展示、紹介をしています。

 デンソーブースの中でも特に注目を集めていたのが、同社のブースで初公開となった現行型のトヨタ「プリウスPHEV」に搭載されているPHEV用インバーターとそのカットモデルです。

 本製品の大きな特長のひとつが、HEV(ハイブリッド車)用と筐体(きょうたい)の同じ大きさとなっており、筐体が共通化されていることです。その理由と利点について、同ブースの担当者は生産ラインの効率化だと話します。

「トヨタでは、日本や北米、欧州、さらに最近では中国などでも車両のグローバル生産化を進めており、部品生産ラインを引きやすくする(統一化する)ために、インバーターの筐体を共通化したいという要望がありました。加えて、生産工数を減らす効率化のため、コネクタを減らしたいという要望もあり、トヨタ側と調整しながら開発を進め、筐体の統一化を実現しました」(デンソーブース担当者)

 また今後のインバーターの展開について、同ブースの担当者は「ハイブリッドではなくBEV(電気自動車)ではインバーターに求められる性能が異なり、部品点数はより減る方向になるため、モーターと一体化した場合にさらに小型化をしたく、とくに高さ(厚さ)を抑えたいという要望があります。また、性能や生産効率化は世代を追うごと、今ある要素技術のなかでは究極に近いところまではきているのですが、コスト低減に対する要望は引き続きありますので、主にその2点を踏まえて次の世代のインバーター開発を進めています」と話しました。

アイシン 海外展開を見据えた 高出力車両向けハイブリッド駆動モジュール

 アイシンは、自動車部品、エネルギー、住生活関連製品の製造販売をする企業です。トランスミッションをはじめとする自動車の「走る・曲がる・止まる」に関わる幅広い製品を展開しています。

 同社のブースは、カーボンニュートラルな社会の実現に向けた「電動化」の製品・技術と、「安心・快適・利便」な移動をテーマとしています。

「電動化」については、電動ユニットのラインナップの中から、BEVに必要な駆動、電力変換、熱マネジメントなどの主要コンポーネントを集約し、エネルギー効率や搭載性を大幅に向上させる「Xin1 eAxle」や、走行性能、燃費の向上に貢献する「FF1モーターハイブリッドトランスミッション」などを出展しています。

「安心・快適・利便」な移動については、乗車前から降車後まで安心で快適な移動空間を提供するとする「ドアコパイロット」「乗員見守り」「最適駐車場提案」などの技術を紹介しています。

 同社ブースのなかで、とくに来場者の注目を集めていたのが「FF1モーターハイブリッドトランスミッション」です。

「FF1モーターハイブリッドトランスミッション」は、トルクコンバーターレスの6速オートマチックトランスミッションに、1モーター2クラッチ構造とインバーターを組み込んだ、通常の8速ATとほぼ同等のスペースにて搭載することが可能な、横置きエンジン用の高出力車両向けハイブリッド駆動モジュールです。走行性能、燃費、車両搭載性能の向上に貢献し、トルクフルでダイレクト感のある走りが特長だと言います。トヨタ「クラウンクロスオーバー」レクサス「RX500h」「LM500h」といった車両に搭載されています。

 ブースの担当者は「ここまでコンパクトで、最大490N・mまでの高トルクに対応したハイブリッド駆動モジュールは今まで存在しませんでした。制御的には難しい課題が多かったが、搭載要件の兼ね合いもありさまざまな試験や対策などをおこなったうえで、トルクコンバーターレス(トルコンレス)設計としています。フロント側に『FF1モーターハイブリッドトランスミッション』を搭載し、リア側に『Xin1 eAxle』を搭載することによって4輪駆動とすれば、さらに走りに振る(運動性能を向上させる)という活用も可能です」と解説。

 さらに「小型化にともなって、クラッチ部が熱を持ちやすい構造ではありますが、電動オイルポンプを活用した大流量のオイル冷却システムを取り入れることによって耐熱、冷却性能を向上。構造的に低速で坂道を発進を繰り返すなどというシーンで最も負荷がかかりますが、開発要件として海外を見据えていたため、海外でよくある“けん引しながら坂道を登るようなシーン”にも対応できる耐久性や容量を確保しています」とその特長や、開発背景について話しました。

ジェイテクト 実用的な「格納式ステアバイワイヤステアリングコラム」

 ジェイテクトは、ステアリングや駆動部品をはじめとする自動車関連部品や工作機械などを開発、製造、販売する会社です。

 同社のブースでは「アカルイミライへ続く道」を出展コンセプトとし、「地球にやさしいモビリティへの提案」「物流ドライバー負荷軽減の提案」「楽しく快適な移動時間の提案」の3つのソリューション提案を実現する製品を紹介しています。

「地球にやさしいモビリティへの提案」では、「第2世代ラックパラレル式電動パワーステアリング(RP-EPS)」、「新設計コラムアシストタイプ電動パワーステアリング(C-EPS)、「遊星減速キャリア一体JTEKT Ultra Compact Diff.」、「水素エンジン向け『高圧水素減圧弁』」「JTEKT Ultra Compact Bearing」を展示しています。

「物流ドライバー負荷軽減の提案」では、「高耐熱リチウムイオンキャパシタ『Libuddy』」、「商用車用コラム同軸操舵アクチュエーター」を展示。

「楽しく快適な移動時間の提案」では、自動運転システムとドライバーのハンドル操作をシームレスに調和する制御技術である「Pairdriver(ペアドライバー)」を紹介しています。

 とくに来場者が足を止めて見入っていたのが、同社ブースで投影されていた「格納式ステアバイワイヤステアリングコラム」の映像です。「格納式ステアバイワイヤステアリングコラム」は、運転者の操作が電気信号として前輪を操舵するモーターへと送られる仕組みの「ステアバイワイヤステアリング」を格納式にしたものです。

 映像には、「格納式ステアバイワイヤステアリングコラム」が装着された車両で、実際にテストコース内で自動運転をしている姿が投影されていました。同社のステアバイワイヤステアリング「J-EPICS」は、機械的なリンクが存在せず、完全なるバイワイヤ(電気信号で伝達する方式)です。

「格納式ステアバイワイヤステアリングコラム」の特長について同ブースの担当者は「手動運転のときに従来のクルマと同じくらいの操作性を確保するために、ステアリングコラムの取り付け剛性を確保しながら、インパネ内に格納できるスライド量を確保しました。他メーカーのコンセプトカーで格納式ステアリングを採用しているものもありますが、実際にはモックでのコンセプト展示となっていて、走行性能を担保できるまで実証しているものは少ないです。今回投影したジェイテクトの製品は、テストコース内での走行試験なども実走しておこなっており、実用化を前提とした開発をしています」と説明。

 さらに「停車時の車内スペース確保という面でメリットは十分ありますが、自動運転レベル4が実用化されてくれば、さらにニーズは高まるはずです」と、その将来性について語っていました。

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 今回が、リアル開催31回目となった「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」。例年のパシフィコ横浜「アネックスホール」に「ノース」も加わり展示会場を拡大して開催された今回の人テクですが、「人と知をつなぎ、モビリティの未来を支える」という同展示会のミッション通り、各所で人々の交流が見られたのが印象的でした。

「人とくるまのテクノロジー展2024」は愛知県での開催も予定しています。会期は2024年7月17日から7月19日までの3日間で、場所は愛知県常滑市のAICHI SKY EXPO(愛知県国際展示場)です。