ファンを騒然とさせた「ボリノーク・サマーン」初のガンプラ化

『機動戦士Zガンダム』に登場したMS(モビルスーツ)のなかでも、「PMX-002 ボリノーク・サマーン」はかなりマイナーな存在でしょう。それは、本編中で大きな見せ場を与えられなかったことが原因かもしれません。

 そのような「ボリノーク・サマーン」が、2024年3月22日から24日にかけ幕張メッセ(千葉市)にて開催されたイベント「HYPER PLAMO Fes 2024」にて、「HGUC」(いわゆるガンプラの、シリーズのひとつ)として発売されることが発表されました。会場では塗装済みの試作品も展示され、SNSなどでは一刻も早い発売を心待ちにするファンの声であふれています。

 なぜならば、同時に発表された「MRX-010 サイコガンダムMk-II」と合わせて、これで『Zガンダム』の主要MSがHGUCとして勢ぞろいするからです。サイコガンダムMk-IIはかつて1/300スケールで発売されていましたが、ボリノーク・サマーンは、ガンプラとしては発売されたことがありません。つまり今回が初ガンプラ化ということになります。

 実は『Zガンダム』放送中、後半に登場するMSの一部が、試作見本としてバンダイの模型雑誌「B-CLUB」VOL.3で紹介されたことがあります。そのなかにボリノーク・サマーンの姿もあったものの、写真には「形状的にはキット化としての問題はほとんどないが、サラが乗るMSなので人気の点で危ぶまれる所である」という辛辣な文章が添えられていました。

 この見立てが正しかったのか、ボリノーク・サマーンは試作見本が作られながらも、結果的にこれまで発売には至らなかったわけです。ちなみに同じくこの時に試作見本が発表されながらも発売に至らなかったのが「PMX-03 ジ・O」でした。逆に試作見本なしに発売されたのが、前述の「1/300 サイコガンダムMk-II」で、『Zガンダム』放映中としては最後のガンプラ商品化でした。

 こういった経緯から、ボリノーク・サマーンにとってガンプラ化は悲願だったといえるかもしれません。もっとも当時の雑誌コメントからもわかる通り、人気があったとも言い難いMSではありました。これまで発売の機会がなかったのも、ひとえに人気面で不安があったからといえるかもしれません。

 しかし、どうしてボリノーク・サマーンは人気がなかったのでしょうか。劇中での設定や活動を振り返って検証していきたいと思います。

「ROBOT魂(Ka signature)ボリノーク・サマーン」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

ボリノーク・サマーンに見せ場がなかった理由とは?

 型式番号の「PMX」が示す通り、ボリノーク・サマーンは「パプテマス・シロッコ」が開発した3番目のMSです。

 最初に開発されたとされるのが、可変MA(モビルアーマー)の「PMX-000 メッサーラ」でした。大型のスラスターによる高機動が特徴で、最初はシロッコが搭乗し、後にサラ・ザビアロフ、そしてティターンズに投降したレコア・ロンドがパイロットを務めました。

 次に開発されたのが「PMX-001 パラス・アテネ」で、火力に特化したMSでした。続いて開発されたのが、偵察能力に特化したボリノーク・サマーンで、そして最後がシロッコ自ら搭乗した専用機、ジ・Oです。

 このパラス・アテネ、ボリノーク・サマーン、ジ・Oはチームでの行動が前提のMSでした。ボリノーク・サマーンが戦場を把握し、パラス・アテネの射撃でフォローしたのち、ジ・Oが近接戦闘で敵を撃破するという流れでしょうか。実際にジ・Oの初登場となる『Zガンダム』第46話では、この3機チームで「ハマーン・カーン」の「AMX-004 キュベレイ」を相手にしていました。

 近接戦闘、射撃、偵察と役割を分散することで、効果的にチーム運用するというシロッコらしい理詰めの論理でしょうか。「偵察能力に特化した」と上述したように、ボリノーク・サマーンはまさに偵察用MSとして開発されたと考えられます。そのため、その頭部にはさまざまなセンサー機器類を内蔵するレドーム、左前腕部にはレーザー・センサーが装備されていました。

 さらに大型システム並みの情報処理能力を持つコンピュータを搭載し、情報をリアルタイムで解析して僚機に送信、味方の的確な戦場把握をサポートする能力を備えています。いわばチームの目であり耳であるMSで、その能力は従来の偵察MSとは一線を画す存在といえるでしょう。まさにシロッコの天才的な頭脳が生み出したMSです。

 ところが、その才能を発揮することもなくボリノーク・サマーンは、シロッコの盾となって宇宙の塵と消えました。これに関してはサラの性格とボリノーク・サマーンの能力がかみ合っていなかったから、といえるでしょう。

 偵察用MSにも関わらず、ボリノーク・サマーンには「ビーム・トマホーク」や「シザース・シールド」、「グレネード・ランチャー」といった豊富な武装が装備されています。これは攻撃用というよりも、自衛のための防御用装備なのでしょう。シロッコなりに、サラを危険から守るための愛情表現なのかもしれません。

 ところがサラとしては、新参者のレコアがいることから、戦果への焦りが生じていました。それゆえに本来の偵察行動という地味な仕事よりも、敵機撃墜といった派手な戦果を挙げることに気がはやったのでしょう。結果的にその焦りが本来の能力を活かしきれず、カツ・コバヤシが搭乗する「FXA-05D Gディフェンサー」の接近を許すことになりました。

 このように、本来の能力を見せることなく退場することとなったボリノーク・サマーンに、見せ場と呼べるほどのシーンがないのは仕方のないことかもしれません。それゆえに人気面でほかのMSに一歩譲るのでしょう。

 新たに見せ場を与えるにも、ハンドメイドの試作機という設定がネックとなり、ほかのMSほど再登場の機会が与えられることはありません。マンガなどではいくつか出番が与えられているようで、そうしたマンガ作品のひとつ『機動戦士ガンダムF90 ファステストフォーミュラ』(漫画:今ノ夜きよし/シナリオ:イノノブヨシ/原作:矢立肇・富野由悠季)では、経緯は不明ですが、若かりし日の「フォンセ・カガチ(『機動戦士Vガンダム』ザンスカール帝国宰相)」が搭乗しています。

 まったくの余談ですが、TVアニメ『SDガンダム三国伝 BraveBattleWarriors』では、「張宝ボリノークサマーン」として登場、兄の「張角パラスアテネ」、弟の「張梁メッサーラ」とともに「黄天ジ・オ」へと「太平要術・木星合身(合体)」しました。

 よくボリノーク・サマーンの名前の由来が、「森のくまさん」であるといわれることがあります。驚くことに、これはどうやら事実のようです。このネタの方が有名で、本編の活躍よりもこの話題で語られることが多いボリノーク・サマーンは、待望のHGUC発売で名誉挽回となるのでしょうか。発売日を楽しみに待ちたいと思います。