ファンの動揺を誘ったスクウェア・エニックスの発表とは

 2024年5月13日、スクウェア・エニックスは、2024年3月期決算を発表しました。それに合わせ、決算説明会の資料や、2025年3月期から2027年3月期にかけての「新中期経営計画」なども公開し、同社の現状や今後の展望を垣間見せています。

 こうした発表や情報公開に対し、消費者から投資家までが広く関心を寄せ、国内有数のソフトメーカーの新たな動きを話題としました。そのなかには、看板タイトルのひとつ「ドラゴンクエスト」シリーズに対する不安の声も混ざっています。

 今回の発表と「ドラクエ」ファンの不安は、どのような形で結びつくのか。また、その不安が現実化する可能性は高いのか。各資料や同社の現状を見据えながら、ファンが気になるポイントに迫ります。

●ファンが危惧するのは、「ドラクエ」の開発中止

 公開された決算資料の中で、開発方針の見直しと各プロジェクトの開発継続可否を検討した結果、新たな開発方針に合わないデジタルエンタテインメント事業の一部コンテンツの開発を中止したことが明示されました。これは、開発途中にあるタイトルの制作中止も意味しています。

 開発を中止した具体的なプロジェクト名は明らかにされておらず、そのため「あの作品が開発中止になったのでは?」といった声が、資料公開直後からSNSを飛び交っています。

 同社が開発中のタイトルといえば、近いところでは『聖剣伝説 VISIONS of MANA』を思い浮かべる人も少なくないでしょう。ただし『聖剣伝説 VISIONS of MANA』は、予定通りならば2024年夏にリリースされる予定です。時期的に考えれば完成は間近なので、よほどのことがない限り発売されることでしょう。

 そのためゲームファンの不安は、すでに開発が決まっており、しかし長く音沙汰のないタイトル、すなわち『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』と『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』に向けられました。

●長く音沙汰のない『ドラクエ12』と『HD-2D版 ドラクエ3』

「ドラクエ」シリーズのナンバリング最新作として開発中の『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』は、同シリーズの35周年を記念する特別配信番組の中で初めて発表されたタイトルです。

 その特番が配信されたのは2021年5月27日のことで、もうじき丸3年が経過します。また、前作にあたる『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』の発売が2017年7月29日なので、ナンバリングシリーズの間隔は現時点で約7年、空いている状態です。

「ドラクエ」のナンバリング作品は、これまでは長くとも5年程度の間隔で新たな作品が登場していました。しかし、『ドラクエ11』と『ドラクエ12』の間隔は、過去に例を見ないほどの長期間に及んでいます。仮に2021年5月27日の発表後に本格的な開発がスタートした場合でもそろそろ3年経つので、続報が届いてもいい頃合いです。

 ところが『ドラクエ12』の新情報はいまもなく、沈黙を保ったままです。そうした状況下で「開発方針の見直し」「各プロジェクトの開発継続可否を検討」という話が飛び出せば、ファンが不安視するのも無理のない話でしょう。

 また『HD-2D版 ドラクエ3』も、同じように不安視されています。こちらは、ドット絵と3DCGを融合させた描画表現(HD-2D)を用いて、名作RPGをリメイクする作品です。完全新作ではないものの、シリーズのなかでも特に人気が高い『ドラクエ3』がベースなので、注目度の高さは相当なもの。そのため、ファンの不安は『HD-2D版 ドラクエ3』にも向けられています。ちなみに本作も『ドラクエ12』と同じく、35周年特番で発表されました。

HD-2Dは、スクウェア・エニックスが力を入れている路線のひとつ。その方向性も転換するのか、今後の動きに注目が集まる。画像は「『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』ティザームービー」より

「ドラクエ」2作品の開発が中止される可能性は?

 ファンが待ち焦がれている『ドラクエ12』と『HD-2D版 ドラクエ3』は、開発が中止されたのか否か。現時点で正式な発表はないため、「続行」とも「中止」とも断言はできない状況です。

 しかし、新中期経営計画に記された開発中止の補足書きを見ると、「今回減損の対象コンテンツは2027年3月期以降に発表予定のタイトルが多く、本中期経営計画期間におけるPLに与えるインパクトは僅少」とあります。つまり、開発を中止したタイトルの多くは未発表のもので、発表済みで開発中止になったタイトルはごくわずかと見てよさそうです。

「わずかでも中止の可能性はある」と言われれば、確かにゼロとまでは断言できません。しかし、「ドラクエ」シリーズはいまもファンが多く、現時点のナンバリング最新作である『ドラクエ11』『同11S』は、2020年9月時点で全世界での販売本数(パッケージ+DL)が600万本を突破しました。これだけ売れているナンバリングシリーズは、スクウェア・エニックスの作品全体を見てもなかなかありません。

 近作に確かな実績があり、リリースを待ち望むファンも多い「ドラクエ」シリーズの発表済みタイトルを中止にすれば、反発の大きさもかなりのものとなるでしょう。そのリスクひとつ取ってみても、中止という判断は下しにくいように思います。

 加えて、「ドラクエ」ナンバリング作品の中核を担うすぎやまこういち氏と鳥山明氏が、『ドラクエ12』開発期間中に惜しくも亡くなられました。この両名が関わった最後の「ドラクエ」となればファンの熱量もより一層大きくなるので、二重の意味で『ドラクエ12』の開発中止は考えにくいところです。

 また『HD-2D版 ドラクエ3』の開発中止も、可能性は低いと見ています。HD-2Dを用いた作品は、第1弾となった『オクトパストラベラー』やその続編、タクティクスRPGの『トライアングルストラテジー』などが、見事ミリオンヒットを記録しました。

 HD-2D作品をユーザーの多くが高く評価しており、この手法で『ドラクエ3』を描くという挑戦も好意的に受け止めています。そこにオリジナル版のファンが加わり、広く期待を集める『HD-2D版 ドラクエ3』も商業的に十分勝算はあるでしょうから、中止は非常にリスクが高いように感じます。

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 いずれもあくまで予想に過ぎませんが、過去作の実績や作品を取り巻く状況、反響の大きさを踏まえると、両作品ともよほどの事情がない限り開発が中止されるとは考えにくいところです。

 とはいえ、正式な発表がなければ不安になるのも当然でしょう。『ドラクエ12』や『HD-2D版 ドラクエ3』の続報が、少しでも早く訪れることを願うばかりです。当面の狙い目は、「ドラゴンクエストの日」に認定されている5月27日。まずはこのタイミングで動きがあるか、注目しましょう。

『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』:
(C)2021 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』:
(C)1988, 2021 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.