物価も税金も高くなり、日々の暮らしがたいへんになっていく一方で、政治家がらみのさまざまなニュースを耳にする毎日。「このままじゃいけないんだろうけど、でも政治のことはやっぱりよくわからないし...」と過ごしている人も多いのでは? そんな人に向けて社会学者の西田亮介さんが身近な例を挙げてアドバイスし、池上彰さんが責任編集をした書籍『幸せに生きるための政治』(KADOKAWA)から一部抜粋してご紹介します。
※本記事は西田 亮介 (著), 池上 彰(責任編集)の書籍『幸せに生きるための政治』(KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました。

politics_P61-1.jpg


経団連が少子化対策で消費税19%を提言?なぜ法人税が下がり消費税ばかりが上がるのか
令和4年度、国の税収は過去最高となる71兆円台を記録しました。税収が70兆円を超えるのははじめてです。でも、その一方で借金も増え続けています。
経団連は2023年9月12日に令和6年度税制改正に関する提言を公表、少子化対策など社会保障の財源として消費税の引き上げが〝有力な選択肢〟だと明言しました。経団連はこれまでも、少子化対策の財源として消費税を含めて議論すべきだと主張してきました。私たち生活者は「消費税を下げてほしい」と思っているのに逆です。
国の税収の3本柱は、「消費税」「所得税」「法人税」です。以前はだいたい、それぞれ20兆:20兆:20兆くらいの比率だったものが、法人税収はどんどん下がり、今では10兆円程度になってしまいました。
前明石市長の泉房穂氏が「X」(旧ツイッター)で苦言を呈していました。「〝経団連さま〟って、すごい団体だ。『自分たち大企業の税金は安くしてくれ』と言いながら、『国民への増税をどうぞ』とけしかける」と。共感します。
考えてみればある意味当然で、大企業社会は自分たちに不利益になることは主張しません。



政府が消費税率を上げて、法人税率を引き下げてきたのはなぜか。「日本企業の競争力が云々...」。でも、優遇し続けてきたのに、日本の企業社会の競争力は落ちてきたでしょう。昔は法人税率も高かったけれど、日本企業は世界的に強かったわけです。時価総額の世界ランキングに何社も入っていました。
消費税が上がると、財布のヒモは堅くなります。消費が冷え込むと自分たちの首を絞めることになるのに、なぜ経団連は消費税を上げろというのでしょうか。
日本政府の債務残高を減らしたいということもあるのでしょう。日本は直近で財政破綻はしないと思いますが、財政的なリスクは下がった方が海外からの投資を呼び込めます。マーケットの安定感、信頼性、健全性が高まった方が好ましい。
一方で、グローバル企業にとって、国内よりも世界が主力マーケットです。日本市場からの売り上げが占める割合はどんどん下がっています。アメリカと欧州、中国市場などが堅調であれば、日本はあまり関係ないということでしょう。
ぼくは以前、「エリートと生活者の利益相反」という論説を書いたことがあります。エリートの主張と生活者の利益が合致しなくなっているという主張です。
昔は、エリートは生活者のある種の代弁者であり、エネルギーはあるけど知識はない大衆をリードする存在で、それがエリートだと目されていて、理念的には両者の利益は合致していました。
でも、今のお金持ち、カッコつきのエリートは違います。
これからは「エリート」と生活者の利益は相反していくと考えています。「エリート」はたとえば子どもの教育を日本で受けさせる必然性がありません。海外にフライトすればいいからです。日本社会や教育がどうなるかも、ある意味関係ないんです。前述の通り、緊縮して財政再建してほしい。
それに対して生活者は、貧しくなっても日本にしがみつくしかないですよね。留学どころか、円安で海外旅行すら高嶺の花になりつつあります。そうすると当然、社会福祉や政府支出を手厚くしてほしいとなり、政府の財政支出は基本的に大きくなる一方です。でも、これ軒並み前述のエリートの利益と真逆ですよね。
企業社会も同じ。アベノミクスの恩恵を受けて、輸出企業は円安のおかげで物凄く儲かっています。売上高も利益も、過去最高を更新している企業がたくさんあります。そういう企業に対しては、やはり課税を強化するべきです。
politics_P61-2.jpg