ルールとマナーの境界

 突然だが、皆さんは「サンキューハザード」をご存じだろうか。サンキューハザードとは、運転中に道を譲ってもらったお礼や、自分の操作ミスや判断ミスで他のクルマに迷惑をかけてしまったときに、おわびの気持ちを伝えるために使うものだ。

 ハザードランプを数回点滅させ、後続車に感謝やおわびの気持ちを伝える。ドライバーなら一度は使ったことがあるだろうし、使っているクルマを見たこともあるだろう。

 サンキューハザードは道路交通法には特に明記されておらず、使用する義務もない。つまり、使うかどうかは、ドライバーの自由なのである。

 そうなると、明確なルールがないため、サンキューハザードを使うクルマと使わないクルマが混在することになる。ルール的には問題がなくても、マナー的に見れば、同じことをする人としない人がいることは、ドライバーの心理や運転に悪影響を及ぼす。

 では、サンキューハザードを使う必要があるのかどうか、持論も含めて書いてみよう。

「運転マナー」についてのアンケート結果。有効回答者数は6906人(画像:パーク24)

サンキューハザードの利用実態

 利用する人と利用しない人が混在しているサンキューハザードだが、実際の利用実態はどうなのだろうか。これについては、仕事とプライベートで年間約6万kmを走る私(都野塚也、ドライブライター)の個人的な経験を紹介したい。

 駐車場大手のパーク24が2015年に行った調査によると、回答者の

「81%」

が道を譲られたときに会釈やハザードを交えてあいさつすると答えている。5人に4人以上の割合だ。しかし、私の経験では、使う人の割合はもう少し少ない。さまざまなシチュエーションを総合すると、60〜70%の人ではないか。もちろん、地域や道路、状況によって使用率は変わってくるが、一般的な感覚としては

「使っている人のほうが多い」

くらいのレベルである。

 さて、本題の「サンキューハザードは使うべきか否か」だが、積極的に使うべきだというのが、長年さまざまな場所や状況で運転してきた私の意見である。

 運転は独りよがりであってはならないし、思いやりや譲り合いの精神は少なからず必要である。また、マナーという観点からも、周囲への配慮や気遣いを示すためにも、積極的に使ったほうがいい。

 私はドライバーに使うことを勧めているし、おそらく他のドライバーよりも頻繁に使っているだろう。道を譲ってもらったかどうかわからないときでも、相手のドライバーに迷惑をかけたかどうかわからない状況でも、

「迷わず」

ハザードを点滅させる。これが正しいかどうかはわからないが、そうする明確な理由や目的があるのだ。

ハザードスイッチ(画像:写真AC)

クルマ社会のコミュニケーション

 新しい幹線道路やバイパス、高速道路が開通し、走る“幅”が広がった分、周りのクルマと一緒に走る機会も増えた。右左折、車線変更、交差点での合流も多い。

 そのため、必然的に道を譲ったり、周囲のクルマに思わぬ迷惑をかけたりしてしまう回数も増えた。そんなとき、サンキューハザードがあるかないかで、相手に与える印象は大きく変わる。理想をいえば、運転は自分にとっても周囲にとっても楽しいものであってほしい。

 しかし、運転中は狭い空間にいるため、日常のように「ありがとう」「ごめんなさい」を直接いうことができない。だからこそ、それを補うことが大切だ。

 サンキューハザードを使えば、自分の気持ちを相手に伝えられる。あなたが相手に親切にすれば、相手もまた違う人に親切にしたくなる。それが次第に

「クルマ社会の向上」

につながっていく。本当にクルマが好きなら、クルマ社会が好きなら、簡単に実行できる長期的なドライバー戦略を立てたほうがいい。その場のマナーを守るためだけではないのだ。

 ただ、ハザードランプは通常、駐車時や急停車時に使うものなので、使ったつもりが、後続車から急停車していると勘違いされる可能性もある。

 そのため、点滅のタイミングや長さに注意するとともに、受ける側になった場合は、その点滅がサンキューハザードなのか、本来のハザードのための点滅なのかを見極めることが大切である。

ハザードスイッチ(画像:写真AC)

お勧めの利用タイミング

 さて、肝心の使い方だが、これも私なりの方法を紹介したい。

 まず、必要な要素は相手への思いやりである。そのタイミングは、相手が前方に道を譲った後、クルマが完全に道路を直進した瞬間に点滅を開始するのだ。

 点滅の回数は3回程度とする。点滅が短すぎると、感謝や謝罪がないように見えるし、長すぎると急停車と誤解される可能性がある。いずれにせよ、周囲に気を配り、必要と感じたらすぐに行うことが肝要である。

 ということで、これからも適切なサンキューハザードを使って、クルマ社会をよりよくするために協力していこう。