1990年代の進化

「カーラッピング」がクルマ関連のドレスアップアイテムとしてメジャーになったのは、ここ近年のことだ。

 ラッピングとは「覆う」「包む」という意味である。クルマと組み合わせると、ボディの全体または一部を特殊な樹脂フィルムで覆って、ボディカラーやディテールデザインを変えることを意味する。

 カーラッピングが、超薄型の塩化ビニールフィルムの進化とともにビジネスとして発展し始めたのは1990年代半ばのことである。筆者(中島高広、モータージャーナリスト)は実際に1995年に米国でラッピングされた車両に遭遇した。

 大型バス全体がスポンサー企業のデザインやロゴで飾られていた。印象的だったのは、窓にもデザインフィルムが貼られ、内側からフィルム越しに外がよく見えるようになっていたことだ。つまり、デザイン性だけでなく透明性も確保されていたのだ。

 その後、日本ではレーシングカーやバスにもカーラッピングが施されるようになった。しかし、当時は広告宣伝のために特別なカラーリングやデザインが必要な場合のみで、同じようなデザインを塗装するよりも安価で、不要になったらフィルムを剥がすだけなので、塗装よりも簡単に原状回復ができることが採用された理由だった。

 ちなみに、いわゆるカーラッピング以前にもカッティングシートと呼ばれる素材でレーシングカーなどのボディをデザインすることはあったが、ラッピングフィルムとカッティングシートは素材の薄さにおいて別物といっていい。

自動車(画像:写真AC)

痛車文化と富裕層

 しかし、時代の流れとともに、クルマにまつわる新たなドレスアップビジネスとしてカーラッピングが台頭してきた。2010年代だったと記憶している。アニメのキャラクターを車体に描く新しいカスタムカー文化、いわゆる「痛車」の登場は、新たなビジネスシーンを強力にけん引した。

 一方、富裕層の間では、マイカーのボディカラーを変えるカーラッピングが注目されるようになった。ここでは、通常の塗装とは質感の異なるボディカラーやデザインを使うことができた。また、飽きたら元の状態に戻すこともできた。そもそもフィルムラッピングはオリジナルの塗装を保護することができ、それが評価されてプレミアム性のあるカスタムメニューに発展したのである。

 現在の市場規模については、さまざまな数字が報告されている。ラッピングフィルムの世界市場だけでも、現在約50億ドルの規模がある。市場は毎年成長を続けており、5年度には200億ドルに達すると予想されている。ただ、これはフィルム単体の数字であり、フィルム施工に関連する業態全体の規模については、現時点では詳細な数字が出ていない。

 カーラッピングがカスタムビジネスに進出した今、ボディコーティングのように一般のクルマユーザーにとってメリットはあるのだろうか。ボディカラーを変える勇気はないが、ボディを保護する効果があるならやってみたい。そんな願望を持つ人は多いのではないだろうか。

 実際、ボディを保護する素材としては透明プロテクションフィルムもあり、フィルムなのでボディコーティングよりもはるかにボディを保護する効果が高い。しかも、見た目はノーマルと変わらない。

 ここまでの説明で、がぜんカーラッピング、特にボディ保護フィルムに興味を持った人も多いのではないだろうか。しかし、このような高いプロテクションフィルムは価格も高く、貼るのも難しい。つまり、コストが高いのだ。

自動車(画像:写真AC)

世界市場の拡大

 クルマのボディ全体をラッピングするにはいくらかかるのか。たいていの業者は、現車を確認してから見積もりを要求する。加工作業がデリケートなためだ。

 概算見積もりを出している業者によると、簡単な色替えの場合、材料費と工賃を含めてボディ全体をラッピングする費用は、だいたい

「100万円前後から」

というところが多いようだ。この費用はフルペイントの費用と大差ないという声もあるが、やはり元の状態に戻せるというのは大きなメリットだ。ボディの保護が目的なら、費用はさらに高くなる。

 カーラッピングビジネスは、世界的に市場が拡大しているといわれている。メディアで紹介されることも多いカスタムカー市場において、塗装よりもラッピングの方が人気になっていることが背景にあるのだろう。

 市場が拡大すれば、当然、市場に流通するフィルムの単価は下がる。また、作業量が増えれば、加工を行う業者の技術も向上する。基本的にはこれでよいのだが、市場拡大の過程で未熟な業者によるトラブルが増加しないとも限らない。

 カーラッピング市場は、新たな市場性のある自動車ビジネスとしてどのように成長していくのか。ネット上でも散見される未熟な技術によるトラブルは、今後どのように解決されていくのか。業界全体の進化と成熟に期待したい。