震災後の新たな交通戦略

 2024年1月に発生した能登半島地震は、交通網に大きな打撃を与えた。交通網が打撃を受けると、人々の生活にさまざまな問題が生じる。交通インフラの復旧が最重要課題であることはいうまでもない。

 しかし、交通インフラが整った後、今後どのような交通サービス戦略を描くべきかが大きな問題となる。例えば、遠方から大量の物資が届けられた場合、増え続ける高齢者がそれを受け取りに行くのは至難の業である。

 また、高齢者や障がい者のなかには持病を持つ人も多く、優先的に医療機関に行って薬をもらわなければ命に関わることもある。大地震の後では、スーパーや商店街がそもそも機能しなくなる可能性もある。つまり、“買い物難民”がたくさん出てくるのだ。こうした状況を総合的に考えると、

「貨客混載型の路線バス」

を多数用意しておく意義は大きい。平時は、人とモノを同時に運ぶことで収益を上げる手段として使える。また、折り返し時間や停車中に買い物ができるようにすることもできる。買い物バスは、まさにこのように運行されている。

震災のイメージ(画像:写真AC)

災害時の輸送対策

 また、地震などの災害時には、物資の輸送と人の輸送を両立させる手段としても活用できる。人の輸送がない時間帯は、荷物運搬車両を増やせる。

 法的にクリアしなければならない部分はあるが、バスの車両を荷物も人も運べるように仕立てる。つまり、荷物を運んだり、人を運んだりする目的に応じて、フレキシブルに改造できるバスを用意できれば、生活のさまざまなシーンで活用できる。

 災害発生直後は、広域にわたって多くの被災者や避難者が発生する。食料や水、毛布などの緊急物資の不足はしばらく続く。東日本大震災の際、国土交通省は全日本トラック協会に緊急物資輸送への協力を要請した。その結果、トラック事業者はパンやおにぎりなどの食料約1898万食、飲料水約460万本、毛布約46万枚、カイロなどの救援物資を

「計2032か所」

に輸送した。それでも、トラックの台数はまったく足りていなかった。

 貨客混載型バスを活用すれば、これらの物資輸送をサポートすることは十分に可能である。避難所などでは燃料不足で冷房が使えないケースもある。そのような事態に備えて、貨客混載車両を電気バスに改造し、各地で充電・給電できるようにしておくことも重要である。

震災のイメージ(画像:写真AC)

復興支える柔軟輸送

 平常時、貨客混載型のバスは、荷物の運搬や集荷に使われるため、時刻表どおりに運行される。一方、災害時には地域コミュニティーの衰退や経済への影響が懸念される。

 人の移動がなければ、そもそも地域経済の活性化は望めない。線路を利用する鉄道と違い、バスは災害復興において鉄道よりも柔軟に地域のつながりを強化できる可能性を秘めている。バスが孤立したコミュニティーを迅速につなぎ、街の中心部と村落を結べることを考えれば、バスの重要性が明らかになる。

 大型2種免許を持つプロドライバーが運転するバスは、安全面でも信頼性が高い。生活支援と観光支援を両立できるフレキシブルなバスは、災害後、落ち着いて被災地を訪れてもらうためにも役立つはずだ。

 つまり、従来の時刻表に基づいたバスではなく、オンデマンドバスが旺盛な移動を支え、地域をつなぎ、移動の利便性を向上させると考えられる。

 ドライバー不足を考えれば、3ナンバーのワゴン車両を活用して小型バスにするのもいいだろう。災害を考えると、オンデマンドバスやオンデマンドワゴンのシステムは意義がある。かつての東急コーチ(東急バスが運行していた貸し切り路線バス)のように、固定路線とデマンド路線の両方を用意する方法もある。

 地域をつなぐ柔軟な手段として、オンデマンドバスやオンデマンドワゴンのシステムをあらかじめ用意しておくことも、災害対策になるのではないか。

震災のイメージ(画像:写真AC)

産官学民連携の復興策

 車両やシステムのアップグレードだけではない。デジタルトランスフォーメーション(DX)社会では、バス停や待合所にあらかじめ電源スポットを設置しておくことも十分可能だ。

 また、主要なバス停を中心にデジタルサイネージを設置し、いわゆるインターネットの恩恵を受けられない人たちでも簡単に情報にアクセスできるようにするという考え方もある。スマートフォンなどが苦手な人でも、地元のバス停に行けば災害や復興、交通に関する情報が得られるというイメージがあれば便利だろう。

 筆者(西山敏樹、都市工学者)の研究室では、バス停の空きスペースを地域コミュニティーづくりの拠点として活用する実験を行ってきた。平時はバスの営業所をテレワークなどに貸し出し、災害時には復興に向けた活動に優先的に活用するというアイデアもある。

 バス発着場は、移動をともなう復興活動において、燃料や車両整備の面でもメリットがある。このような新しいアイデアも研究から出てきている。

 もちろん、こうしたアイデアはバス会社だけで実現できるものではない。行政も交通部門と災害対策部門との連携が必要だし、産官学民の連携で組織の枠を超えた取り組みが必要だ。それでも、地域を柔軟に走れるバスシステムは、復興に生かせる側面が多いのではないか。