新年度が始まってから少し時間が経ち、仕事も落ち着いてきたから、今年こそ新しい習いごとを始めよう!

そう意気込んでいる人もいるだろう。英会話やスポーツジム、プログラミングなど、社会人になってからもさまざまな経験から学びを得ることはできるが、その学びをきちんと生かせているだろうか? なかには、学ぶどころかスクールやジムに全然行けてない…という人もいるかもしれない。

「自己投資の失敗は、時間と費用対効果を考えていないから起こる」と話すのは、マネーコンサルタントの頼藤太希さん。「時間と費用対効果」をポイントに有意義な自己投資を行うには、何から考えていくといいだろうか。

まず考えるべきは「目標」「期間」「金額」の3つ

「失敗の原因は時間と費用対効果といいましたが、簡単にいえば“後先考えずにやっている”からです。『いずれ仕事で役に立つだろう』という感覚で習いごとに通っている場合は、目的を見直すことをおすすめします。なんとなく通っていたり、目標がないために学びが身に付いていなかったりする状況は、“投資”ではなく“浪費”となってしまうからです」(頼藤さん・以下同)

出典/『1日1分読むだけで身につくお金大全100 改訂版』頼藤太希・高山一恵著

上図の右側のように、目的を意識せずに習いごとや勉強を行うと、学びや成果といったリターンが得られないため、“浪費”となってしまう。

「自己投資は“投資”である以上、リターンを意識する必要があります。そのため、始める際には『目標』『期間』『金額』の3つを検討しましょう。上記の図のように英会話スクールに通うとしたら、『TOEIC800点』という目標を設定し、『1年以内』『費用30万円まで』というリミットを考え、そのなかで達成できるように計画を立てていきます。重要なのは、成果が見えやすい目標を設けることです。『取引先と英語で話す』『外国人とのディベートに参加して結果を残す』という目標でもいいでしょう」

既に習いごとを始めている場合は、改めて「目標」「期間」「金額」を考えてみよう。目標に必要なものやきちんと役立っているものだけを残し、通っていないスクールや目標に必要ないものを中断する思い切りのよさも大切だ。

「さらに目標から一歩進んで、『次工程』を考えることも重要です。理想と現実のギャップを埋めるために学びを得て、理想の自分になった後に何をしたいのかということです。英会話スクールに通って英語をマスターすることで、取引先と英語で話したいのか、昇進したいのか、『次工程』によって学ぶべき英語も変わってきます。取引先と話すならビジネス英語が必要かもしれませんが、昇進が目的ならTOEICで高得点を目指すほうがいいでしょう。目標や『次工程』を整理することが第一歩です」

人としての幅を広げる学びは「本」「人」「旅」にあり

英語やプログラミングなど、わかりやすいスキルや資格だけが成果につながるわけではない。「今後の社会に生かせるか」という視点も必要とのこと。

「ロボットやAIの活用が当たり前になる時代において、ある程度の語学力や論理的思考力も必要になるとは思いますが、それ以上にロボットやAIでは代替できない人間ならではのスキルが重宝されると考えられます。コミュニケーション能力や共感能力、創造性、柔軟性、敏捷性などが求められるでしょう。情報があふれている現代は、たくさんの情報を編集し、正しい情報を判断する力も必要になるといえます」

ロボットやAIでは代替できないスキルは、どのように身に付けていくといいだろうか。

「取り組みやすいのは、『本』『人』『旅』から学ぶことでしょう。本は先人や能力の高い人が考えていることを細かく噛み砕いて残してくれているものなので、知らない目線や考えを与えてくれます。人からも知らない知見や経験、視野を得ることができるでしょう。旅に出て初めての土地に赴き、知らない文化に触れることも成長につながります。人は自分が知っている範囲の延長線上でしか創造できないといわれているので、知っていることが増えた分だけ創造性が増すと考えられます」

習いごとと比べると、読書はコストのかからない学びだが、ただ読めばいいわけではない。頼藤さん流の読書法は「アウトプットを意識すること」。

「本の内容をアウトプットすることを意識して読むと、そこに書かれている情報や知識が脳に蓄積されやすいといわれています。学生時代の国語のテストで、問題を読んでから題材となる詩や小説を読むと、重要な部分が理解しやすかったのと同じ原理です。アウトプットといっても難しいことではなく、SNSやYouTubeに読書ログを投稿する、人に本の内容を話すといった方法でもいいですし、ノートに要約するだけでも十分です。その積み重ねで知識が身に付き、社内の会議で得た情報について話したり、アイデアにつながったりするでしょう。情報を編集する力も身に付くはずです」

もうひとつ、自己投資に関する注意点があるという。「自己投資=お金をかけること」ではないという点だ。

「自己投資というとお金をかけて学ぶことと考えがちですが、お金を使わなくても自己投資はできます。読書も、図書館で本を借りればお金はかかりませんよね。ボランティア活動への参加でも、多くの学びを得られます。ただし、いずれの場合でも時間はかけているので、それに見合うリターンを得られているかどうかで判断してみましょう」

「お金の投資」も自己投資になり得る!?

「金融資産への投資も、自己投資になります。株式や投資信託に投資をすると、マイナス金利政策解除の影響が気になったりしますよね。アメリカの大統領によってマーケットも大きく変わるので、大統領選のニュースも見るようになるでしょう。それまであまり意識していなかったニュースを見聞きし、より深く知るために調べるといった行動が自分を成長させます。投資を経て得た社会や企業に関する情報をもとに、営業先を選んだり、新たな事業を生み出したりすることもできるでしょう」

金融資産への投資も自己投資も、ポイントは「複利効果」にあるという。「複利効果」とは、運用で得た利益を元本に加えて再投資することで利益が利益を生み、効率よく利益を得ていく効果のこと。

「金融資産への投資だと『複利効果』はわかりやすいですが、自己投資においても同じです。経験や学びが自身の価値を高め、さらなるビジネスやチャンスにつながり、その経験でさらに価値が高まるというサイクルにつながるのです。経験は年齢を重ねるごとに得づらくなるものなので、早いうちから自己投資を始めることが大切です。また、知識やスキルだけでなく、一緒に働いてくれる仲間との関係や長く働き続けるための健康といったお金に換算できない“見えない資産”も増やせる自己投資を心がけていけるといいでしょう」

英会話スクールに通い始めて満足するのではなく、その先にどんな未来を描いていきたいのか、改めて考えることが自己投資の第一歩といえそうだ。

(取材・文/有竹亮介(verb))